【太宰治】一腕一足の少女 (ページ38)

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虚影Ⅲ ページ38

「ごめんなさい、こんなに長々と…。」

「上手く…云えないけど、言葉を選んでくれている事は分かる…分かります。」

「私に敬語は不要ですよ。」

「…何となく、こうしたいと思ったので…。」

「したい事があるのはいい事です。

ゆっくりでいいですからね。」

「貴女は、迚も不思議な人…。」

「…？」

「…気にしないで、下さい。」

同性と話す事が少なかったのか、俯きがち乍らに此方を見ていた。

次第に話す内に目が合う事が多くなり、話し終える頃には彼女の視線は真っ直ぐに私を捉えていた。

警戒心の薄まった彼女の様子に何処か安心を覚えたのも束の間、彼女の中にある光景が流れ込んで来た。

「…っ。」

平屋、庭、居間、団欒。

和装の女性、洋服の男性、血、武器、ーー夜叉。

夜叉が女性を殺し、彼女を守る様に………

「……い、……おい！確りしなA！」

「…与謝野、女医。」

「…はぁ、全く。困った能力だね、アンタの異能は。」

「有難う御座います。」

与謝野女医に聞いた所、鏡花さんと話している途中に私が突如静止したらしく、直後涙を流し出した為慌てて他の人に助けを求めたそう。

不安げで心配の色を浮かべている彼女に申し訳なくなった。

「鏡花さん、有難う御座いました。

…すみません、私の異能は不便なものでして。

時々こうなる事があるので余りお気になさらないで下さい。」

「貴女の、異能って…」

「見えないもの、見える筈のないもの、見えてはいけないものが"見える"能力です。

此処に来てからは幾分かましになったんですけどね。時々こういう事があります。」

「…辛くないの？」

「そういうものです。

近い内、鏡花さんにも分かるようになると思います。」

「私は……。」

余りしんみりした空気は得意ではない為、私は気持ちを切り替えやっておきたい事をするべく立ち上がった。

与謝野女医に問題ないと会釈をし、鏡花さんに笑顔を向けた。

「却説、鏡花さん。

着いて来て頂きたい場所があるのですが、お時間大丈夫ですか？」

「問題ない…です。」

私はと或る場所へ彼女を連れ出し、其の道中で探偵社での仕事について説明した。

探しもの、事件の捜査依頼、護衛任務やら事務作業等など。

齢に対して発言が整っていた事から、彼女の頭脳面は大人と何ら変わりないようだった。