【太宰治】一腕一足の少女 (ページ29)

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アンダーグラウンドページ29

日中、人通りの多い通り。

建物の外壁を背に、異能力を使った。

「異能力『沈みゆく日』。

二日前から現在までの痕跡を可視化。」

自身の異能で、この通りに残された数多の足跡や人の流れ、光景を二日前迄に限定して遡行した。

勿論それを見る事は私にしか許されていないのだから、周りは私が棒立ちしているようにしか見えない。

遡って行く中で、この通りを歩行する太宰さんの姿があった。

遡行したまま歩くにも現在の光景が見えない為、聞き込みに回った。

「すみません。私探偵業に携わる者なのですが、お時間戴いても宜しいでしょうか？」

「ーー変な事っていやぁ、昨日か一昨日かにこの辺りで着物着た嬢ちゃんがいたよ。

微動だにしないでずっとつっ立ってて……あーほらあそこの壁にさ、赤い着物で二つ結びのお下げの嬢ちゃん。

若い兄ちゃん達が話し掛けてたと思うよ。」

「ーーあー確かにいたよな、二日ぐらい？同じ姿勢で何か待ってたみたいでさ。

途中急に走り出して、背の高い兄ちゃん捕まえて……その後どうだったかな？詳しくは覚えてねぇわ。」

「ご協力感謝します。有難う御座いました。」

運良く数時間程で太宰さん関係の目撃者に話を聞けたが、覚えの無い着物の少女の存在が気になった。

聞き込みを続ける内に判った事で、どうやら少女と太宰さんと思しき人は街中で突然消えたらしい。

目撃者達に正確な場所を教えて貰い、立ち止まって異能力を使った。

過去の光景では確かに此処で太宰さんが拐かされたようで、消えたというのは瞬歩ともいえる速度で路地裏に逃げて行ったからだ。

異能力であろう夜叉が太宰さんを抱える少女を隠しながら逃走。

足跡を辿っていくと、随分と人気の無い路地裏の、何とも知れない古びた扉に続いていた。

視界を広げるように透視すると、扉の向こうは広い地下通路が続いており、その奥には横浜有数の超高層ビルが位置していた。

(あ……これマズい奴だ……。)

マズいと分かってはいたが、進むべきか退くべきか悩んでいた時、電話が鳴った。

「……はい、水野です。」

〈俺だ。〉

「新手のオレオレ詐欺ですか？」

〈そうではなくてだな、国木田だ。〉

「冗談ですよ。何かありましたか？」

〈与謝野女医と敦がポートマフィアの指名手配犯と交戦した。

今のところ敦絡みの事件だろうと思うが、お前も十分気をつけろ。

外回りも良いが、事務仕事も忘れるなよ。〉

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