【太宰治】一腕一足の少女 (ページ26)

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執着の片鱗ページ26

「A〜？アンタって子はねぇ、一体どれだけ妾に心配掛けりゃ気が済むンだい？」

グリグリとこめかみを左右から圧迫され、私は激痛に悶えていた。

「う、あ……すみま、せん与謝野女医……。」

「なんでその"杉本"ってのが犯人だって判った時に、ソイツの傍から離れとかないのさ！」

「いた、いたたっ……彼には、撃てないと思って……」

「妾は言い訳を聞きたい訳じゃないンだよ。

全く、大方"見えて"たんだろうに、太宰にでも引っ付いてりゃ良かったのさ。」

やっとの事で与謝野女医の手中から逃れると、モジモジと何か言いたげな敦さんの視線に気付いた。

「敦さん、どうかなされましたか？」

「あの……先刻から気になってたんですけど、水野さんの話の際に出てくる"見える"って何ですか？」

「ああ、それは……」

と、私が説明をしようと口を開いた時、突如背後から口元と腰周りを誰かに押さえられてしまった。

このいくつかの入り交じった匂い。

睨みながら背後の頭上を向いた。

「それはねえ、Aちゃんの異能力故なのだよ。」

「太宰さん！いつの間に……」

「ぷはっ……離して下さい。」

「やぁだ。暴れたら擽るよ？」

身動きが取れない状況下で私は後手に回るしかなく、比較的暴れること無く彼の手中に収まってしまった。

与謝野女医の次は太宰さんか。

然し暴れずとも、モゾモゾと身動ぎは続けた。

「それで、水野さんの異能力って……」

「彼女の異能力はね、云ってしまえば千里眼みたいなものだよ。」

「千里眼？」

「人の心までは見えないらしいけど、透視だったり痕跡だったり、未来であったり。

とまあ、普通には目視できないものが見える。

それが彼女の異能力だ。」

敦さんも悪い意味でこの光景に慣れてしまったらしく、藻掻く私を助けてはくれない。

太宰さんの腕を引き剥がそうと身を捩っても、力が強まるばかり。

話す間に太宰さんは回転椅子に座り、私は太宰さんの上に乗せられていた。

既視感を覚えつつ、抵抗をやめた。

「……補足として、他人にしか見えていないものを可視化する事もできます。

私個人に視界を共有するといいますか、誰かに触るとその人の視界を借りる事が可能です。」

「先刻未来も見えるって、本当なんですか？」

「そこまで便利なものではありませんよ。

時偶断片的に見えるくらいで、意図して未来を見る事はできませんし、見たいとも思いません。」

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