【太宰治】一腕一足の少女 (ページ11)

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幕間ページ11

太宰さんの背に身を預けていくばかりか。

ゆったりとした振動は心地の良いものだったが、如何せん視点がかなり高くなった事に加え、微妙に彼の服が湿っていた。

何ともいえない。

確かに彼の温もりは伝わってくるけれど、夕刻の入水が想起される。

何より彼からは様々な匂い、臭いが入り交じっており、主に生臭かった。

「……国木田さんの背中が恋しい。」

「何だい？藪から棒に。Aちゃんは随分と寂しい事を云ってくれるね。

そんなに私の背中は嫌かい？」

「太宰さんが嫌なのではなくて、入水後の川臭さと水気が嫌なんです。」

「んー、私はAちゃんの温もりを感じられて幸せだけど？

……ってああ冗談だよ、冗談！」

大変不愉快な事を云われたので、私はバック転する形で彼の背中から降りた。

国木田さんに労力をかけて頂くのは申し訳ないので、自力で歩こうかと本気で考えた。

結局私も川臭くなった。

「どうしたんだいA？」

「太宰さんの発言に何かを損なわれました。

自分で歩きます。」

「それでしたら、僕がこの人と一緒に運びましょうか？」

「それは遠慮しておきます。」

「何してんだい太宰。あの子自分で歩いちまうじゃないか。

Aがああいうなんて、よっぽどの事云ったんじゃないだろうね？」

「やだなあ与謝野女医、彼女は照れてるだけですよ。

後は私が川臭いからですけど。」

「アンタねぇ…。

私が手を貸そうったって断られるだろうし、あの子は頑固オヤジかっての。」

凡て聞こえていたが、敢えて何も云わないでおこう。

全く照れていないと云えば嘘になるが、実際川臭いのと湿っぽいのは我慢ならなかった。

背後から与謝野女医と太宰さんに見守られながら、何とか探偵社の事務所へ辿り着く事ができた。

久々の杖無し歩行に疲れたけれど、義手と義足のメンテナンスもしなければならないので休んでいられない。

普段の事務作業よりは明らかに負荷が掛かったのだから、点検して損は無い。

諸々が落ち着く頃には既に20時を回っており、青年は社員寮に放り込まれたそう。

私はメンテナンスが終わったので、社員寮付近に位置する自宅へ帰った。

勿論セコムがいたけれど。

因みに青年にはタイピンをプレゼントしておいた。

明日からが楽しみである。