Aimer Ⅱ (ページ31)

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遥輝は気づいているのだろうか。

「なあ、A」

『ん？』

「何でAは俺と付き合ってくれるん？」

『え？』

しばらく静かに音楽を聴いていたら、不意に聞かれる。

「つい最近まで俺のこと嫌ってたやん。そっからどうやって、こういう関係になれるようになったんかなって……
また嫌われたくないし、その……な？」

その声は心に影を落としているようだった。

『……嫌いになんてなってへんかったよ。ずっと』

ただ勇気がなかった。努力でスターの階段を上り、着々と夢を叶えていく遥輝に顔を向ける勇気が。会いたい気持ちはあった。でも嫌いにもなりたかった。

嫌いになれたらどれだけ楽だったんだろう。

”放っといて”

その一言を伝えたらどれだけ……

『でもね、あかりには絶対に西川くんを捨てるなって言われてたし、西川家には遥輝に会わなくていいから、プロ野球選手として頑張ってる遥輝を応援しててほしいって……』

「ん？西川家？」

『おじちゃん、おばちゃん、お姉ちゃん』

「全員やん……」

特にお姉ちゃんはこっそりでいいから、と試合に誘ってくれたりもした。

初めてファイターズの試合に行ったのは2013年の開幕戦、西武ドームだった。遥輝は開幕スタメンとして2番打者を任され、2打点の活躍を見せた。

『お姉ちゃんにユニフォーム貰ってるのも知らんやろ？』

「嘘やん、持ってんの？」

『26から7まで揃ってる』

26、8、今の7……
全て私にとって特別な数字だ。

私はドラゴンズのファンだ。堂上さんをリスペクトし、背負ってきた背番号ユニフォームを揃えた。

でも遥輝が背負った背番号も揃えた。お姉ちゃんに貰ったり、売店で買ったり。かつて仲良くしていた幼馴染がプロの世界で頑張っている。

ファイターズの選手は中田さんと大谷くん、杉谷さんと遥輝くらいしか分からなかったし、滅多に出さないけどそれが特別なものには変わらない。

「何やねん、もう……」

コンビニの駐車場に車が止まる。真剣ながら泣きそうな顔をして、遥輝は私の両頬をそっと包んだ。

「なあ、A……」

『な、何？』

少しずつ近づいてきた。熱を帯びた瞳が問いかける。

まただ。また、遥輝は”なあ”から全てを始める。

気づいてる？

そんな疑問を拭い去るように静かに重なった唇。私達の世界を180°変えた。