Aimer Ⅱ (ページ22)

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しっかり腹が減った。目の前でクルクル巻かれていく卵焼きを見ていると、つまみ食いもしたくなってくる。

「美味っ」

つまみ食いのレベルではないけど卵が焼かれる音をおかずにとりあえず米を食らう。つい声が出た。気づいたAは大きな目を丸くした。

『お米だけ食べるのは変わらへんね……』

「ご飯党やもん。これ炊飯器もええやつ使ってるやろ？」

『そうだよ！岡崎に自分に合った電化製品を選んでくれる電器屋さんがあって、そこで買ったの』

飯が美味い、笑顔が可愛い、俺のことを知り尽くしている。部屋着もすっぴんも可愛い。癒される。こんな嫁さんおってくれたら毎日幸せやん。

こんな素敵な子を野放しにしてええんか、俺。

どこの馬の骨かも分からんやつに奪われてええのか？

「なあ、A」

『ん？』

「……結婚を前提に付き合いませんか？」

こんなもん勢いで言ってしまえ。本能のままに、自分に嘘をつかずに言い切った。

『はい？突然アホなん？』

口は悪い。でもほっぺたと耳がジワジワと赤く染まっていくのが見て取れる。

『遊びやろ？騙されへん……』

「遊びなわけないやん」

『へっ？』

火が止まる。まな板の上に焼きたての卵焼きが乗っかった。

「本気やで。何で俺がここまで来たか分かってんの？」

本当は近いうちに東京でNPBの表彰式がある。それでも北海道から愛知まで来たのは利便性とか東京に近いから、という理由ではなくAが好きすぎて、会いたくて仕方がなかった。

”はよ会いたい”

”そんなこと言うなんて。珍しっ、年末はどう？

年末じゃあかん。今すぐに、少しでも早く会いたい。

「誰にも渡したくないねん。Aが好きやから」

偽りなんかやない。俺の、素直な気持ちだ。
俺の想い、伝わってる？
その目から溢れ落ちる涙は伝わってこそのものなんか？

『何で……？何で、私なん……？』

静かに落ちた雫がメガネのレンズを濡らす。

『もっと美人で可愛い女の子、沢山おるやろ……？
何で、私を好きになったの……っ』

小さな体が背を向けた。

……震える背中が訴えかけるのは最悪の結果か。

せっかく仲直りできたのに、また拗れてしまうんやな……、と人に告白して初めて後悔が押し寄せた。

泣かせたかったんやない。ほんまは嫌な思いなんてさせたくなかった。