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『別によそよそしくなんて……』
「嘘つくな」
明らかに態度おかしなったやん、と遥輝は寂しそうに目を伏せる。
「俺は! 大切な幼馴染やから、ずっと、会いたかった」
何も言えへんかった。
「俺だけやったんか? Aに会って、今までのこと語りたい思うてたの」
繋いだ手に力がこもる。30cm近く上からの視線が痛いほどに振り刺さる。
「……ごめん、興奮してもうたわ」
半分引っ張られるままこの店に入ろう、と隠れ家のような半地下のバーの中へ入る。
「いらっしゃいませ……、奥まで案内します」
遥輝の顔を見たバーテンダーはハッとして何かを察したように、奥のテーブル席まで案内してくれる。
「プレリュードフィズ、お願いできます?」
「お連れ様は」
『ピニャコラーダを……』
まさか遥輝とこんな風にバーで飲むなんて思わなかった。
沈黙がきつい。2人でいて気まずいと思ったのは今日が初めてだ。
「……なあ、俺はAに何をしたん? 教えてほしい」
まっすぐな瞳は私を捉えて離さない。
「あかりさんが一緒やったら会えるかな思ったけど何回も断られるし、どこで嫌われてしもうたん?」
『ごめん……』
……嫌いになんてなってない。西川遥輝は地元の星。和歌山の名門校で活躍してプロ野球選手になり、プロの世界では20代そこそこで盗塁王に輝いた。
私は高校進学を機に紀の川を離れたけれど、岡崎に来てからも中学の同級生から遥輝の活躍を聞いていた。交流戦を通して目の当たりにした。
としくんやざわくんもドラゴンズファンではあるけれど、スポーツニュースを見る度に遥輝がすごい、と目を光らせる。
『……遠くなったと思ったの。ただ、それだけ』
それは嫉妬にも似た感情だった。
3年前の成人式、私は紀の川に帰省していた。
当時既にプロ入りしていた遥輝も参加していて、押し寄せた報道陣や同級生達にもみくちゃにされていたのを見かけた。
運命的に目が合った。優しげな声がA、と叫ぶ。笑顔で手を振り、A、遥輝やで、と必死に叫ぶ。でも答えなかった。答えられなかった。
慣れない振袖でおぼつかないながら早足で逃げた。
「俺が有名人になったから?」
『……うん』
遥輝は深くため息をついた。
「お待たせしました、プレリュードフィズとピニャコラーダです」
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あおやなぎ(プロフ) - はるちゅんさん» ありがとうございます(^^) これからじゃんじゃん進めていくので楽しみにしていてください〜! (2019年9月1日 23時) (レス) id: c05e59e944 (このIDを非表示/違反報告)
はるちゅん(プロフ) - うおっ、最強!更新頑張ってください!お気に入りに入れます! (2019年9月1日 22時) (レス) id: 3445983938 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2019年8月29日 22時