ヒロインはやっぱり私じゃない(確信)【ヒロアカ】 (ページ43)

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第91話ページ43

心操くんの洗脳に操られた緑谷くんは、場外へ出たと思われた瞬間、暴発を起こした。

その足は、ライン際フロア内を踏んでいた。

《緑谷、留まったアァ!!》

会場全体に叫声が湧き起こった。

『すごい……けど、どうやって洗脳を解いたんだ……？』

目を凝らして見ると、緑谷くんは左指を抑えていた。
暴発は、彼のあの超パワーによるものか。
本人も焦っていたのだろう。息を切らして肩を上下させる様子が必死さを物語っている。

体の自由は効かない筈の中、彼は土壇場で自分の指を弾いて暴発を起こし、その衝撃で洗脳が解けた……と考えられるかもしれない。

「すげぇ無茶……」

尾白くんはホッとしたように上げていた腰を下ろす。
他の皆も緑谷くんの様子に安心している中で、私だけが拭いきれない靄を胸の中に抱えていた。

突っ走って来る緑谷くんに向け、心操くんは焦ったように次々と言葉を投げかけていた。
それに答える者は、いない。

彼も緑谷くんと同様、諸刃の剣だったのだ。
洗脳を攻略されれば、もう勝ち筋は彼に残されてない。
余裕なさげな表情で叫ぶ言葉が、この場所にも届いた。

「恵まれた奴にはわからないだろ！」

彼のやり場のない感情が強くぶつかってくる。
同時に、私の脳内に間接して流れてくるものがあった。

___、___！

いま、何か聴こえた。

咄嗟に耳を立てて神経を研ぎ澄ませる。
ゆっくりと私は座席から立ち、身を乗り上げた。
彼らのその心は、鮮明に捉えられた。

〈__俺だって、憧れたのに、なんで、〉

〈僕もそうだった〉

〈お前らにはわからないだろ〉

〈わかる、わかるよ〉

ヒーローになりたいという憧憬は、
誰よりも、あの頃の緑谷くんが強く抱いていたものだった。
心操くんはそれでも抗うように、言葉を止めはしなかった。

「誂え向きの“個性”に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよ!!」

私は、息を呑んでその言葉を聞く。
まるで自分に云われたようだった。

緑谷くんは殴られるものの、引くことは決してなかった。
それは心操くんも同様に、ラインギリギリの所に押し込まれようが、力ずくでも緑谷くんを押し出そうとした。
両者一歩も譲らぬ中、聴こえてきたのは緑谷くんの声だった。

〈僕を助けてくれた人達のためにも、僕は____僕は、負けられないんだ!!〉

流れるような背負投げが決め込まれ、その場に静寂が漂う。

《心操くん場外！緑谷くん2回戦進出！》

審判の手は、緑谷くんに挙げられた。