ヒロインはやっぱり私じゃない(確信)【ヒロアカ】 (ページ28)

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第76話 "一歩進んで、逆戻り" ページ28

___スタジアム内とある一室。

ここは選手たちの怪我などに応対する場、リカバリーガールの出張保健所。
“個性”の使用を許可した体育祭になくてはならない場所だ。

湧き上がる歓声は屋内の一室まで聞こえてくる。
目線を上にして小さなモニターから見えるのは、精魂尽くした顔の緑谷くんのアップ。それに続いて轟くん、かっちゃんと、続々と顔見知りがゴールしていったのが実況されていた。

「どうさね、具合は」

『全く大丈夫ですね！』

私の呑気な受け答えに一息ついた、我が校誇る女性看護教諭リカバリーガール。

「極度の高所恐怖症とはねぇ……そりゃまた最難なこったね」

『私もまさか超高所での綱渡りをやらせるとはまっったく聞いてませんでしたよーハハハハ』

目を開けたら天井があった。
見知ったおばあちゃんが居ると思えば、私は知らない間に救護室に来て寝ていたらしい。

「事前にイレイザーヘッドから聞いてなかったのかい」

『聞いてたら速攻抗議してましたよ。………ていうか知ってたんだ』

「アレが雄英生だった頃から私はここに居たからねぇ。姪のこともそりゃあ知ってるよ。というか聞かされたわさ」

高らかに笑うおばあちゃんの底が見えない。
レースを辞退し私が此処にいる理由は、実にあっさりしたものだ。

　

・

時は戻り。
第１関門をなんとか突破した先で私を待ち構えていたのは、果てしない闇が広がる断崖絶壁。

《落ちればアウト！それが嫌なら這いずりな!! ザ・フォ――ル!!》

第２の関門綱渡り。
そしてここは雄英。普通とは一味違うのが醍醐味。
……これが信じられないほど高所だった。

恐る恐る谷底を覗けば、吹き上がってくる生ぬるい風。底見えぬ眼下に足が竦み、冷や汗が流れ落ちた。

妙にリアルじゃん？え、まさか本物な訳ないよね？これ本当に落ちたらどうするの？

どうしても、他の生徒たちの様には進めなかった。
ジワリと手汗が滲むのに反して、体温は急激に下がるのを感じた。
並走していた緑谷くんは既に綱に足を掛けており、足を止めた私を不思議そうに伺っていた。
他の皆も、普通に渡っている。でも、これは……。

「Aちゃん？」

『…………………ごめん、ムリ』

「え……？」

膝から崩れ落ちた私の腕は、知らずと大きく震えていた。

『高所、恐怖症なの………』

・

「まったく……高所が苦手で失神する奴なんて初めて診たよ」

『え』

そんなこんなで、現在第２種目です。