第74話 ページ26
走り出して間も無く、刺客は現れた。
『つめた……？』
後ろから強い冷気を感じれば、たちまち足元は凍てつき一瞬にして一面スケートリンクとなった。
「悪いな」
横を颯爽と通り抜けていったのは、見覚えのある紅白頭。轟くんの仕業だった。
『やってくれるじゃん……』
他にも身動きを取れない人たちが周りにいる。
ここで“個性”の使いようが試されるってことか……。
まぁ、こんなの溶かせるし。
『風力0』
身体から微弱な熱風を出して、内側からじわじわと氷を溶かしていく。
溶けたところから徐々に水が流れ、脆くなりかけてきたところで私は足を動かしてみると、簡単に足から氷は外れた。
他のクラスメイトたちも前線を抜けていくのが見えた。USJでの体験が生かされてるのだろうか。
後ろに緑谷くんが悪戦苦闘しているのが見え、私は思わず止まった。
彼はようやく氷を外すと、見ていた私に気づいて走ってきた。
「っしょ……あっAちゃん！ 抜けたんだね」
『なんとかね。……えっ、峰田くんすげぇ』
見上げた先にいた峰田くんは、驚異の追い上げで先頭に接近していた。
逆転なるかと思いきや、何かに吹き飛ばされ彼はそのままどこかへと転がっていく。
「峰田くん！」
『……いや、待ってなにあれ』
私が指差した方向には、巨大なロボット。
「入試の時の仮装ヴィランだ……。あれ、Aちゃんも見たことあるよね？」
『えっあっ、うん！』
思わず二つ返事したが、一般試験を受けてないなんてここで暴露できない。
こんな巨大なロボット相手にこっちは生身なんだが。というかこれ入試で出てきたのか、すごいな。
思わず、先頭の彼を目で追う。
『うそお……』
冷気を纏った轟くんが地面から掌を翳し上げると、一瞬にして巨大ロボットは大きな氷塊となる。
不安定な氷像は崩れてゆき、後ろにいた私たちは砂埃を被った。
易々と、そして鮮やかに障害物を蹴散らしていくトップに、格の違いを見せつけられた。
間を空けることなく、次々にロボットが湧いてきて私たちを阻んだ。
『……どうしようかな』
見た限り重厚そうな鉄の塊だ。
生徒に重傷を負わせることができないなら薄いスチールで作られているかもしれないが、憶測で重量も計れない。
そのとき、誰かが倒れたロボの下敷きになった人がいると叫んだ。
「死んだんじゃねぇか」
「この体育祭死ぬのか!?」
ボコっと横たわったロボの装甲が突き出す。
多分、心配する必要はないみたいだ。
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作者名：ペトリコール | 作成日時：2018年9月5日 12時
