第71話 ページ23
少し前の紫色の頭がきょろきょろと動く。
これはわかってないか。
〈あの〜“紫頭くん”、聴こえてたら左手あげてくれない？〉
「……また紫頭…」
苛立つ彼の心情が聴こえてきた。
そりゃあ頭から人の声が聞こえてきたら気持ち悪いよね、うん、ごめん。
なんて悠々としていて実は、怪訝そうな声に少しチクリと古傷が痛んだ。
めげない。どうせバラすんだ、やりたいようにさせろ。
〈昨日の黒板消してた女子っていえばわかるかな。えっと、どうしても謝りたくって〉
すると、彼はぐるりと後ろを向いて私を見てきた。
「この声、アンタの“個性”？」
「は？ いきなり何言ってんだ心操？」
〈待て待て待て待て!!〉
彼の真後ろの男子生徒が不思議そうに尋ねているのが見え、私は思わず STOP! と手のひらを前に出していた。
『あ』
近くの人たちからの視線が刺さる。
隣の上鳴くんが驚いた顔で聞いてきて、慌てて手を引っ込めた。
言わなかった私も悪いけども、そんなストレートに聞いてくるか、普通。
〈……うん、そう、“テレパシー”ね。心の中で対話する。……面倒だと思うけど、口で話しかけないで心の中で言ってもらえるとありがたい〉
「………」
紫頭くんは今度は少し、左を向いて目線だけ私にくれていた。
〈あー面倒臭くてごめん……。で、昨日のことなんだけどさ〉
〈別に言われ慣れてる〉
〈あ、うん……でも、これは私が言いたいから言う。……簡単に、当たり前みたいになれるって言ってごめん。君の気持ちも知らないで適当言って。……すみませんでした〉
気持ちは通じたか否か。
彼の横目と、私の恐る恐る覗きこむ目が合う。
〈___本当に謝ってくる奴なんて、今までいなかったのに〉
あー、なるほどねぇ……。
その心情につい同調した。
すると、彼はすごい勢いでこちらを振り向き、若干目を見開かせた顔を私に見せた。
『っぁ、ごめ、勝手に……』
「………いい」
そう言うと、彼はまた前に向き直った。
デリカシーなさすぎてもう土に還りたい。
未だ向けられたままの彼の背中から、次の言葉を待つ。
許してくれただろうか。
それとも、呆れられてしまっただろうか。
〈……そんだけ？〉
返ってきたのは、私の想像とは違った平坦な声だった。
〈あ、うん……。ほんと、ごめん……〉
そこで会話は終了して、私はなんとも言えない微妙な気持ちになった。
「……」
なぜか彼はもう一度振り返って私を見据えた後、前に向き直った。
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作者名：ペトリコール | 作成日時：2018年9月5日 12時
