ヒロインはやっぱり私じゃない(確信)【ヒロアカ】 (ページ20)

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第68話ページ20

「なに？自分の株上げるためにいい子ぶってるだけでしょ」

『ちがっ、』

すぐに否定しようとした口は「違わないだろ」という声に呆気なく閉ざされる。

「アンタみたいに恵まれた奴には一生わかんないよ。……なりたくてもなれない奴が、どれだけいるかなんて」

思わず顔を上げれば、その表情は確かな怒りを帯びていた。

『っごめんそんな、……そんなつもりじゃなかった……ごめん』

何も知らない彼のことを本心から理解ろう(わかろう)とするなんて無望だった。
彼の言う通り、私は善人ぶっている。
だから最後の「ごめん」は曖昧だった。

「……アンタも、俺の“個性”を知ったらヴィラン向きだって思うよ。だから言わないけど。……じゃ」

並べられた言葉は妬みや嫉みじゃない。
完全な“敵意”だ。

違う。
ちがう、違うんだよ。

私は確かに恵まれていて、いい子ぶっていて、クソみたいな偽善者かもしれないけど。

君だって、私の何を知ってるの？
簡単に、言ってくれるなよ。

沸々と込み上げてくるこの感情を、ぶつけてしまえば楽になれるだろうか。
言いたいのに、やっぱり言えない。
伝えたいことがまた間違って伝わったら？
そんな臆病な性格は、口を固く閉ざす。
代わりに私の“個性”は“云えた”。

____“個性”が“個性”がって、煩いんだよ。

じゃあヒーローになりたくないのになれる私は恵まれているっていうの？
いやね、君が充分不幸せなのは分かったけどさ。
目標も志も何もないのに此処に立ってる私の気持ちがわかる？
知らないくせに、言わないで。

紫頭は、こっちを振り返った。
あっけらかんとした顔が、徐々に曇っていく。

「は？」

『………あっ!?』

明らかに怪訝そうな表情が伺えたときにはもう遅い。
テレパシーを使ってしまった。
どう弁明してどう誤魔化すか。
あぁもう、一体どうしてこうなってしまうのか。

『えっとその、偽善者だし卑怯だし君に対して嫌味言ってるだけなのはわかってる、でも私だってさ、……その、なんていうか……』

「なんなんだよ」

なんなんだよって、なんなんだよ。

『っ____君みたいに、好きで雄英入ったわけじゃないって言ってんだよ!!』

何かが爆ぜたような気がした。
同時に、頭では失態に気がついていた。
体温が下がっていく感覚もした。
思わず己の口を手で覆う。

やらかした。最悪だ。

『ご、め……っ本当にごめんねっ!!』

脱兎の如く、私はその場から逃げ出した。