第61話 ページ13
「さっきは悪かった。あまり“個性”のことは話されたくねぇみてぇだな」
話が脱線していたのを彼は元に戻す。
私はその言葉に頷いた。
『うん……まだ周りの人たちには内緒で……』
「隠す必要があんのか？」
『……幼稚園の頃に、周りの子から嫌がられて。この“個性”』
そう言って、静かに笑った。
【テレパシー】
他人の心の中がわかる。
話しかけずとも、脳内に伝えかけることができる。
それは
また、それは私にも同様だった。
便利な“個性”だねと大人に褒められ、優越感に浸ったときもあった。
将来はヒーローになれるとも言われて、叔父の言ってた通り、あの頃はそんな夢を抱いてたかもしれない。
しかし同い年の子の反応は違った。
“それヤダ!! 気持ち悪い!!”
終いには、
“Aちゃんに近づくと、気持ち悪いことされる”
なんてさ。
何人かの子に避けられようになった私は、とうとう色々な感情が爆発した。
結果、幼稚園三大暴力事件に数えられるほどの叩いたり蹴ったりの大喧嘩を起こしてしまった。まぁ、蟠りはなんとか解けた。
私がテレパシーを使わないと約束し、
その記憶を、みんなから消してもらって。
その頃から、人にこの“個性”を隠すことにした。
他人からすれば嫌悪でしかない“個性”。
そのことを、未だに消化しきれない自分もいる。
私は壁に背を預けた。
女子の平均身長よりある私でも、彼との身長差が少しだけ開いた。
『ずっと、大っぴらには使わないようにしてたんだ』
「……」
『あっでもUSJでちょっと使っちゃった』
「……それは仕方ねぇんじゃねえか」
『だよね！ ウン！』
彼の言う通り、緊迫したあの場面では仕方なかった。
使用した彼らは案の定、空耳だと思ってくれたし。
長らく公表してこなかったものを、今更「実は“個性”はもう1つありました〜」なんていうのは避けたい。
緑谷くんとかっちゃんも同じだ。
幼馴染である２人も、幼い頃に例の忘却操作を施したことで、私がこの”個性”を持っていることなんて知らない。
「俺だけ教えてもらったのは、なんか得した気分になる」
『へーそっかよかったー………うん？ 待ってなんで私、轟くんには話した？ え？』
「だから５歳の頃、」
『そうなんだけども！ なんで君には話したんだ５歳の私、まったく記憶がない!!』
私は頭を抱えこんで狼狽える。
５歳の頃、一体何があったんだよ。
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作者名：ペトリコール | 作成日時：2018年9月5日 12時
