第5話 ページ7
反射神経にだけは定評がある私(自称)。ぶつかった0.1秒後に顔を上げる。
その顔を見た瞬間、心臓が嫌に大きく鳴った。
ほぼ同じ背の高さのその人は見覚えのある面構えをしていて。
「……は」
明らかに怪訝そうな低音を落とした。
爆発頭で、目付きが恐ろしくて、いつも罵詈雑言しか言わない。爆豪勝己、その人。
終わった。
思わずいもしない神を嘆き天を見上げる。南無三。
対して、セメントで固定されたかのように動かない彼。
撤退するなら今しかない。
『おぉ、爆、豪くん、ごめんね』
私は一歩一歩、ゆっくりと後退する。
彼に背を向け歩き出そうとしたとき、
「オイ」
後ろから閻魔様のお声が聞こえた気がした。
距離は推定1メートル。爆死確定。
「お前も此処第１志望だったんか」
『ぇ……あ、うん、そーだよ？』
怒られるかと思いきや、爆発を起こされることもなかった。
冷や汗を流しながらとにかく適当にごまかす。
「まぁお前は落ちて俺が合格するけどな」
鼻で嗤われ、「まあ当たって砕けろや」という彼なりの謎の助言をもらった。
彼はズカズカとその場を立ち去る。
その自尊心を少し分けてもらいたい気もした。
本来、私に与えられたギフトは彼のような優秀な人材に当てられるものだらう。
私が特別枠と聞いたら彼はどんな顔をするのだろうか。
一抹の罪悪感を覚えつつ、自分の受験会場に向かった。
・
人気から離れた静謐な空間が佇む場所に校長室はあるらしい。
いつもの装いの叔父が立っているのを見つけると、彼は側の重厚そうな扉をノックする。
「入ってくれたまえ」と明るい声が聞こえ、私は面接のマナー通りに扉を開けた。
しかし、そこに校長と思われる人は居なかった。
「やあ！ 君が相澤先生の姪っ子さんか！ 全然彼と違うね！」
『っえ!? ……校長先生、でよろしいです、か……？』
「HAHAHA！ そうさ！ 僕が校長さ！」
代わりに回転椅子に座る服を着たぬいぐるみが喋っていて、あやうく小動物的可愛さに気を取られそうになった。
「ではこれから特別試験を始めるよ」
『よろしくお願いします』
「まずはキミの“個性”を見せてもらいたい。キミはテレパシーと風の“個性”だね？」
『はい』
「では僕と相澤くんに何か伝えてみて！」
言われた通り指示に従った。
特に身構えることなく意識すれば、簡単に私の“個性”は発動する。
〈私は工藤Aです。聞こえますか？〉
その場にいる２人は頷いた。
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作者名：ペトリコール | 作成日時：2016年6月1日 23時
