第36話 ページ38
どうやら轟くんは窓際に寄り、流れから逸れていたらしい。
私を受け止めてくれた彼は本当に王子様のようだ。
「この事態に大分混乱してるみてぇだ。でも見てみろ、……大丈夫か？」
彼の胸に大胆にもダイブしてしまった私は、その尊顔があまりにも近すぎて動揺しまくっていた。
いや、これで動揺しない奴がおかしい。
顔に熱が集まるのを隠そうとして下を向くと、校門に群がるマスコミが見えた。
『何あれ……ただのマスコミじゃん』
「まぁこれを知ってる奴がいないんじゃ、この状況は変わらねぇだろうな」
諦めたようにため息をつく轟くん。
その息が私の頭にかかってきて、くすぐったいです。
真上にある端正な顔立ち。何度見ても羨ましいくらい綺麗だ。
透明度の高い瞳や、透き通るような髪。
ひとり絵画を眺めるようにぼうっとしていると、背中を押されて思わず身を強張らせた。
忘れてはならないが、ここは窓際。
こちら側に波が押し寄せてくるのだ。
身長こそ高い方だが、なんせ私は体力がミジンコなため、油断すればまた流されそうになる。
すると突然、肩に手が置かれて視界が回転した。
『せっま……、え、轟く、ん……』
轟くんの胸に預けていた(不可抗力)私の肩は壁に当たる。
代わりに彼は、ぐるっと私を覆うようにして目の前に立った。
「わりぃ、息苦しくねぇか」
『ハイダイジョーブです!!』
今一度、状況を説明しよう。
左右には逞しい腕が、
顔のすぐそばには骨ばった手が、
目の前には男らしい胸板が、
そして、背後には大きく透明な壁が。
なんの少女漫画、これ？
慌てて他に意識を逸らそうと、少し先に何かが目に入った。
「どうした」
『いや、あれ！』
私が指差した先を見て、轟くんは「お」と短く反応した。
あれ、もとい飯田くんは空中で回転しながら非常出口の壁に衝突し、
「みなさん、大丈ーーーー夫!!!」
と、叫んだ。変な体勢で。
「ただのマスコミです!! なにもパニックになることはありません!! 大丈ーー夫!!」
しんと静まる廊下と、遠くから聞こえてくるパトカーの音。
生徒たちも安心したようで人の圧迫感から私は解放された。
『はぁぁ……』
背中からずり落ちるようにしゃがみ込んだ私に、轟くんは手を差し伸べてくれた。
「悪い、苦しかったか」
『いや轟くんこそ大丈夫だった!? ありがとう、お陰で埋もれずにすんだよ〜、ははは……』
手汗かいてないかな、と思いながらその手を取った。う、手まで綺麗だなんて。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1608人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ペトリコール | 作成日時：2016年6月1日 23時
