ヒロインは絶対に私じゃない(確信)【ヒロアカ】 (ページ31)

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第29話ページ31

『え、それ私のこ、ちょっ!?』

目があったかと思えば、さっきよりも強い力で引っ張られ(引きずられ)、私は強制連行された。
私達は無言のまま駅へ向かい、帰路を共にする流れになっていた。

夕刻の混む時間帯は人の間を縫うのがやっとの筈だが、前を進む彼は人の壁を容易に破壊して、進むわ進む。
ちょっとは非難の目を浴びることに抵抗を持てよ。
私は彼の代わりに頭を下げながら引っ張られていた。

『爆豪くんいだだ、ちゃんと歩けるから！あと人にぶつかってるから！』

「黙ってろカスが!! ……ックソ!!」

『ぃ……っ、チカラチカラ！弱めて！』

手首が千切れそうなんだが。お前はゴリラか？
彼は「変な声出したんじゃねぇ！」と、意味不明なことを言って私の腕を勢いよく投げ捨てる。
本当にもげるかと思った。
真っ赤になった手首を擦りながら、大人しくなった隣を見やる。

刹那、プラットホームに生暖かい風が入り込んだ。
結ばれた髪が風に巻かれて顔に当たる。
視界の隙間から、横に立つ彼を見やる。

揺れ惑う、紅い瞳が見えた。

爆豪くんが見せた、２度目の涙だった。

ひどく弱々しい姿に、戸惑った。
爆豪くんが、私の前で泣いている。
目には水が溜まり、堪えるように唇を噛みしめている。
そんな彼にどこか既視感があった。
私は以前この顔を、見たことがある。

『あ、あの……』

だからか、どうしてか。

『____だ、ぃじょうぶ』

自然と手を伸ばした。

『だいじょーぶ……』

子供を宥めるような優しい声色を心がけながら、彼の背中をさする。
今はこの人を、安心させたかった。

訓練の時、何が起きたかは知らない。
多分、この人は耐え難い屈辱を受けたのだろう。
だから私の前でも涙を流している。
いつもは絶対に見せない弱さを、私に見せている。

彼の背中を少し押して電車に乗る。
私がずっと背中に触れていても、彼は何も言わなかった。
顔は片手で防がれて見えない。
そのことに、私は安心していた。
変な感じだなぁ、と移り変わる景色をただ眺めていた。

電車を降りるときにはもう、彼は前を向いていた。
私は背中から手を離し、いつも通りに歩いた。

いつも通り彼の後ろについていく。
今はその背中が小さく、情けなく、頼りない。

“個性”を使えば、考えていることがわかる。
しかし、知ってしまえば私の中で彼は“爆豪くん”ではなくなってしまいそうで。

私の知ってる彼ではなくなってしまいそうで。
少し悲しいような気がする。