*＊gioventu＊*【ｲﾅｽﾞﾏｲﾚﾌﾞﾝ短編集】 (ページ38)

今日:12 hit、昨日:2 hit、合計:26,510 hit

#倉間典人ページ38

｢…此処？｣

『うん』

｢……正気か？｣

『ケンカなら買うよ』

いやいや、お前とケンカなんてたまったもんじゃねぇよ

そんな意味を込めて、俺はうっすらと殺気の感じられる笑顔を浮かべるAに向かって、頭をぶんぶん振った

『じゃあ何』

｢いやぁ、だって...ねぇ｣

俺は口を閉じてちらりと周囲に目をやる

其処は海。辺り一面が見渡す限り真っ青な、海水浴場

それは別にいいと思うんだ。景色は綺麗だし

でもな......

｢何で梅雨の、海開き前のこの時期に此処に来るんだ？地味な季節ズレを発揮するな！｣

そう。今は梅雨

しかも今現在雨は降っていないものの、今にも降り出してきそうな積乱雲が空の大半を占めている

そんな心の叫びをさらけ出した俺に対し、Aの返しは見事に俺の予想の斜め上を突いてきた

『...何が悪い？』

｢頼むから冷静に考えろ！｣

彼女は俺の言葉に、更に首を傾げる

『だって、来たかったから』

｢あー...そうかよ...｣

『倉間と。2人で』

｢何でよりによって俺なんだよ...｣

『倉間だから。それに此処じゃないと駄目』

｢...は？何それ｣

全くもって意味が分からん

Aの発言は時々、超次元すぎる俺たちの技よりも超次元を極めているように俺は感じる

『覚えてない？此処
私たちがちっちゃーいときに来たのに』

｢...？｣

『そして此処はね、ただの思い出の場所ではないんだけど..覚えてない？』

｢...残念ながら｣

『そっか』

本当に残念そうに顎を落とし、Aはそう呟いた

しかしすぐに顔を上げてくるりと此方を向くと、にっこり笑った

『倉間くん(・・)』

｢あ？急にどうした｣

『貴方が好きです』

｢はっ!?//｣

そして、Aから唇を重ねてきた

甘くて、心地好くて、でもとても短い重なりだった

『うふふ』

俺から少し離れて、口元に指を当てて微笑むA。そのどことなく妖艶な姿を見ていたら、唐突に気が付いた

｢...そうか｣

『思い出した？』

此処は俺たちが付き合うきっかけとなった場所。そして俺たちが初めて唇を重ねた場所でもあったのだ

『今日は半年記念日』

｢あ...言われてみれば｣

『よし、忘れられないようにしてやる』

そして俺たちは再び唇を重ねた

今度はもっと深く、長く───