マイクロチップ ページ42
〜・〜・〜・〜
一時間だ。
一時間くらい、ずっとこの長い廊下を歩いている気がする。
壁にぎっしり貼り付けられた絵もすっかり見飽きたその頃、先頭にいるフーリッシュがピタリと歩みを止めた。
「フーリッシュ？」
ハワードが彼をのぞき込む。視線を一斉に浴びる彼は、フリーズしたように動かない。
「どうした？」
心配になり、彼のLEDに何か変化が無いものかと前に出たその時。
足元がガクンと落ちるような感覚に襲われた。そして上を見上げて初めて状況を理解する。
今私は、大きな穴に落ちているのだ。きっとトラップか何かを踏んだのだろう。
あまりに突然のことに、私の意識は徐々にハッキリしなくなってくる。最後に見えたのは、こっちに飛び込んでくるドンだけだった───
〜・〜・〜・〜
ドシッッ！！
体に走る鈍い痛みで目を覚ます。どうしよう。起き上がろうにも起き上がれない。
そうだ、ドンは？
「ドン！」
彼の名を口にすれば、返事を促すようにエコーがかかる。見つめた先には下水道があの廊下のように続いていた。
やばい事になった。
私は動こうにも動けないし、車椅子もない。身一つでドンを探し出すのは不可能だ。
ああ、絶体絶命とはこの事か。
私が途方に暮れていると、後ろから掠れた声に話しかけられ、振り向く。
「リル、こっちです」
その少年は、どことなくフーリッシュに似ていた。ああ、いけない。助けが欲しいあまり幻覚まで見えるような目になってしまった。
「幻覚などではありません」
少年は私の体を起こし、そう言った。私を抱えたその手は、まるで本物のアンドロイドのように凹凸があった。
「・・・頭を打った」
「首を見せてください」
「診察か？」
彼は服のポケットから、鋭利なものを取り出し、それを私のうなじに突きつけた。
「いっ・・・！」
鋭い痛みに目を閉じると、彼はその傷口を少し広げ、中に小さなチップを埋め込んだ。
「痛い・・・」
「申し訳ありません。ですがこれは、これからのあなたの任務に役に立つでしょう」
「任務に？」
「フーリッシュとドンの機能にこのチップを接続しています」
「これで彼らの居場所が？」
「ええ、GPS機能です。
このチップはアンドロイド全般に取り付けられていて、人間にとって脳のようなもの。動きの司令部です」
「なんでこんなものを私に───」
彼は、いなかった。
さっきまで目の前にいたはずなのに、彼は私のうなじを切ったナイフだけを残し、跡形もなく消えていたのだ。
名前を、聞いておけばよかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クロユリ☆★(プロフ) - ここりどらすさん» わあ、嬉しいです！ありがとうございます(^^*) (2019年8月23日 1時) (
レス) id: 0bca962c48 (このIDを非表示/違反報告)
ここりどらす(プロフ) - 好きです。8点入れさせていただきました。 (2019年8月22日 23時) (レス) id: af90c931db (このIDを非表示/違反報告)
クロユリ☆★(プロフ) - ぐうたら猫さん» ご報告ありがとうございます！これからも頑張ります！ (2019年2月8日 18時) (レス) id: 0bca962c48 (このIDを非表示/違反報告)
ぐうたら猫(プロフ) - こんばんは。誤字があったので、ご報告します。『彼の感情』の後半、機械が機会になってました。修正と更新、頑張って下さい！ (2019年2月8日 17時) (携帯から) (レス) id: e6816c78e0 (このIDを非表示/違反報告)
クロユリ☆★(プロフ) - 夜桜さん» わかりました！拝見させていただきますね！ (2018年8月14日 19時) (レス) id: 0bca962c48 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：クロユリ☆★ | 作成日時：2018年7月25日 13時
