春色列車。３

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遠方の学会に出席して疲れてる忠義くんに、
迷惑かけたくない。


「・・・けど、」


忠義くん、何か言いかけたはずなのに。

少し、困ったように眉を下げて。


「俺もシャワーだけにするわ。
スーパーダッシュで入ってくるから。
一緒に寝よ？」


優しく、そう言い直した。


忠義くんが無理して笑ってくれてるの、
時々、伝わるから、悲しい。


私といても、辛いだけ。


あんなに、
いつも笑い合ってたのに・・・








忠義くんが拘り抜いて選んだベッドは、
経験したことないぐらいに、ふかふか。


「雲の上って、こんな感じなのかなあ」


真っ白な天井を眺めながら、思わず呟いてた。

隣で、忠義くんがクスッと笑う。


「Aっておもろいこと考えるなあ」


「そうかな」


毎日、病院のベッドから空を眺めながら、


早く雲の上に行けたらいいのに。


そう思ってたから。


それは言葉に出来なかった。


いつもどこかに、死にたいって気持ちがある。


その思いは、濃くなったり薄くなったり。


けど、まっさらに消えてくれることはないような気がする。


「雲の上で寝れたら、
これくらいふわふわで、
気持ちいいだろうな」


「俺はちょっと怖いな。
風に吹かれて、千切れて消えそうで。
そしたら真っ逆さまに落ちるやん」


「忠義くん、怖がりだもんね」


「こいつ」


忠義くんが私の方を向き直って、
おでこをちょんと、長い指でつつく。


「けど当たってる。
俺、昔っからへたれのビビリやねんなあ。
よう外科医やってんなあって自分でも思う」


「ほら認めた！」


「生意気や、A」


ほんとは怖がりのあなたに、

こんな運命、背負わせられないよ。


声にならない想いを押し殺して、
無理に笑った私に、
忠義くんが、優しくキスをする。


私も本当は怖がりなの。

この世界に存在してる勇気さえない。


「A、スイトピー、いつ見に行こうな。
休みはたっぷり２週間もらってるねん」


「ん、・・・いつがいいかな」


スイトピーを見に行ったら、
忠義くんとの物語はおしまい。

この幸せは跡形もなく消えてしまう。

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