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「へへっ…こんな顔で戻ってきたら、北斗びっくりしちゃうなっ」
そう言うと田中さんは、優しく微笑んだ。
「花火…するんでしょう?」
「はい、…でも、彼の体調と相談ってところです」
「隣接してる駐車場があるんです。今日はこの後、他にお客様のご宿泊の予定は無いですし、よかったらそこ使ってください」
「バケツとかもお貸ししますよ」と田中さんは言った。
俺はお礼を言って、きっと喜んでくれるだろう君の笑顔を想像した。
「いい夏にしてあげたいんです」
「…いい夏、」
「彼の、最後の夏だから。俺と過ごすって決めてくれたから、良い思い出たくさん作りたくて」
満開の菜の花畑を眺めて、出来たての美味しいパンを食べて、観覧車に乗って、映画を観て…
病室では見られなかった北斗の笑顔は、出発をしてから毎日のように咲いていた。
気づけば、宣告された一ヶ月はもう過ぎている。
「…北斗さんは、京本さんを笑顔にする力があるんですね」
「へっ」
「お二人でいる時、京本さんすごく嬉しそうだから。…今も、きっと考えてたでしょう?」
口元を手で覆う。確かに緩んでいて、恥ずかしくなった。
「私、人を好きになったことないんです。
今まで何人か女性とお付き合いしてきたけど、全然愛せなくて。…たぶん男性に対してもそうなんです」
「…だから、お二人が少し羨ましい。
愛しく思う相手がいると、人ってこんなに幸せそうに笑うんだって。」
持ってもらっていた荷物を差し出されて、受け取る。
田中さんはクシャッと皺を作って笑った。
「いい夏に出来ますように。
お二人の旅のお手伝いができて光栄です」
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晴(プロフ) - 名前しずくさん» あとがきまで読んでくださったんですね(^^) 2人はこれからもお互いを想いやっているはずです…! 長らくのご愛読、ありがとうございました! (2021年10月5日 19時) (レス) id: 924db004c7 (このIDを非表示/違反報告)
名前しずく(プロフ) - 金平糖を贈る意味がとっても素敵で、お話にも合っているなあと感じました。今までお疲れ様でした。 (2021年10月4日 9時) (レス) @page44 id: 0ac6e112f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:晴 | 作成日時:2020年10月21日 20時