・ ページ19
その漢字三文字がどうも懐かしくて、俺は無意識に口角を上げていた。幼い頃、近所の駄菓子屋さんで売っていた金平糖。様々な色の粒が、なんだか宝物みたいに輝いていた そんな思い出。
「大我？」
君は車いすを自分で漕いで、俺の傍で止まる。
「見てよコレ。」
「金平糖だね、懐かしい」
店内に差し込む夕日が、小瓶の中のそれを照らす。
恋に落ちたみたいに、俺はその光に釘付けになった。
「………ほくと、ポストカード決めた？」
「うん、これにする。綺麗でしょ？」
「いいね。じゃあ、一緒に買うね」
手にした小瓶と、ポストカード。
レジにいたお婆さんに手渡して、千円札を支払った。お釣りを貰って、商品を袋に入れてもらう。
「いいの？こんなに食べ切れない気がするけど。」
「いいよ、沢山食べるものじゃないし」
「じゃあなんで買ったの」
「…なんでだろ」
何故だろう。よく分からなかった。
記念に、と言うには余りに菜の花と関係がないし、鞄の中にしまっておいて旅の合間に食べるお菓子にしては 重さがあるし。
多分、理由なんてないのだと思う。俺が君を好きであることに、特別な理由がないのと同じように。どうして北斗が好きかって、君が君だから、ってこと。
＊
旅館は、駅から十分ほどの所にあった。
食事付きで、なかなかお得な宿を見つけたと思う。君の為にベッドのある部屋を探した。
鍵を貰って部屋に入り、君の手を取る。
ベッドの上に座った君の横顔を、夕日が照らしているのが美しかった。
「…あぁ、こんな所まで来ちゃったんだ」
なんて、嬉しそうに笑う君。決して病院まで遠くはないけれど、長閑な 景色の綺麗な場所に来られた喜びを、二人で噛み締めた。
「夕飯まで、少し眠ろうかな」
「うん、それがいいよ。日が沈んだら起こすね」
「ありがとう大我」
布団を掛けてあげると、君はゆっくりと瞼を閉じた。
あまり大きな音を出さないように、少しだけ荷物の整理をする。
リュックサックの奥から、取り出した砂時計。訳もなく、持ってきてしまった。さっき買った金平糖みたい、と思うと可笑しい。
丸い小さなテーブルの上に、二つを並べて飾ってみた。
_____君の命が砂時計なら、
__________金平糖は 君の記憶。
「ふふ…何言ってんだろ」
独り言を呟く。けれど、発言を撤回するつもりは無いよ。瓶から溢れてしまうほどの彩りを、君にプレゼントするから。
眠った君の傍に駆け寄って、
額にそっとキスを落とした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 477人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
晴(プロフ) - 名前しずくさん» あとがきまで読んでくださったんですね(^^) 2人はこれからもお互いを想いやっているはずです…！ 長らくのご愛読、ありがとうございました！ (2021年10月5日 19時) (
レス) id: 924db004c7 (このIDを非表示/違反報告)
名前しずく(プロフ) - 金平糖を贈る意味がとっても素敵で、お話にも合っているなあと感じました。今までお疲れ様でした。 (2021年10月4日 9時) (レス) @page44 id: 0ac6e112f4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：晴 | 作成日時：2020年10月21日 20時
