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最初に選んだのは、お昼ご飯にと下調べしておいたパン屋さんのある駅。列車が停車した後、俺は立ち上がって君のひざ掛けを預かった。
両手を持つと、君は俺に体重をぐっとかける。
「ゆっくりね」
「ん、」
慎重に立ち上がった君は、俺の手を頼りに一歩ずつ足を踏み出す。広げておいた車いすまではほんの5歩ほどだけれど、君には長い長い距離。
「うっしょ、…ふぅ、」
車いすに座った君は、少し息が上がっていた。
「お疲れさま。深呼吸だよ」
「ふぅ…ふぅ…うん、だいじょーぶ」
ひざ掛けを再び君にかけてあげて。
それから俺は、荷物棚に上げてあったリュックサックを下ろす。酸素ボンベと、極力減らした衣服類。
重さはかなりあるけれど、こんなの 全然。
俺達が下車することに気づいてくれたみたいで、森本さんはスロープを用意して待っていてくれた。
「ありがとうございます」
君がそう言うと、森本さんは大きな瞳を細めて笑った。
「ゆっくり楽しんできてくださいね。
列車は何本か走っていますけど、またお会い出来るのを祈っておきますっ」
「ふふ。もりもとさん。覚えておきます」
無人改札を出ると、やわらかな陽射しが照りつけた。そよそよと吹く風に思わず大きく息を吸い込む。
君は手元の地図を広げた。
「パン屋さん……あ、あった。あっち」
「ん、じゃあ動くよ」
君の車いすをゆっくりと押して、歩き出す。タイヤとアスファルトが擦れて鳴る音や、手に伝わってくる地面の感触。病院では感じられないものばかりで、ひとつひとつ大事に想う。
時々鳥のさえずりがすると、君は必ず
「鳥の声」とか「また鳴いた」とか。久しぶりの外だから、と君は嬉しそうに笑った。
「…ねぇ大我」
「ん？」
「今頃みんな、どうしてるかな？
家族とか、こーち先生とか。」
今朝、笑顔で送り出してくれた君の家族。
高地先生も、笑っていた。
「…内心、ドキドキだと思うよ。」
「ふふ、そりゃそうか」
「けど、みんな北斗の気持ち分かってくれたんだよ。だから今朝も笑顔だったって俺思う」
そう言ったら、君は振り向いて俺の顔を見た。
「ん？」
「……ふふ、ううん。
本当にそうだね。色んな人に、感謝しなくちゃ」
お目当てのパン屋さんは、すぐに見つかった。国道沿いにぽつんとあるプレハブの小さなお店。いつも焼きたてで、とっても美味しいと評判らしい。
「車いす、大丈夫かな？」
君がそう訊くから、
少し待っていてね、と言って俺は1人で店の扉を開いた。
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晴(プロフ) - 名前しずくさん» あとがきまで読んでくださったんですね(^^) 2人はこれからもお互いを想いやっているはずです…！ 長らくのご愛読、ありがとうございました！ (2021年10月5日 19時) (
レス) id: 924db004c7 (このIDを非表示/違反報告)
名前しずく(プロフ) - 金平糖を贈る意味がとっても素敵で、お話にも合っているなあと感じました。今までお疲れ様でした。 (2021年10月4日 9時) (レス) @page44 id: 0ac6e112f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴 | 作成日時：2020年10月21日 20時
