第三章 ページ25
たった数日の間に、日中の気温がぐんと上がった。
春の風は着実に、夏の雲をこちら側へ誘導している。
それはなんだか 北斗の体に潜むそれに似ていた。
「…ｺﾎｯ、…コホッコホッ……」
布団を被ったまま、北斗が咳き込むから。
俺は傍で、優しく胸を撫でた。
「…ｺﾎｯ…ごめんね、
せっかく、ここまで きたのに」
声は低く掠れて、口元は動かしにくそうで。
苦しいからなのか、北斗の瞳は潤んでいる。
「ほくと、どこか痛む？」
「ん…もぅ、よくわかんなくて…」
眉尻を下げて、へへ と笑う。
うちに帰ること。この数日で、何度も頭をよぎった。
だけど北斗は、その度に俺を見透かすように
「もう少しだけ。おねがい」と言う。
「たぃがぁ」
「ん？」
「…ここのほてる、海、ちかいんでしょ」
いずみ鉄道の終着駅を降りて泊まった宿から、ここに移動してきたのは4日前のこと。
ホテルの送迎車を予約して、極力体の負担にならないようにしたけれど、この数日の体調の悪さはおそらく移動の疲れからきている。
「うん、すぐそこだよ。
海もあるし、山もあるし、夜は星が見えるって」
「ふふ…素敵な ところだ」
北斗がそう呟いた時、ぐぅ…と低い音が部屋に響いた。
それは君のお腹の音だってすぐに分かって、照れた北斗はくすくす笑った。
「何か買ってこようか。俺もお腹すいてきちゃった」
「うん、…そうだな、やわらかいパンなら食べられそう」
それから北斗は「ジェシーさんのパン、美味しかったなぁ」と呟いた。
旅の初日に2人で立ち寄ったパン屋さんを思い出す。あの時よりも、君の笑顔は随分ふわふわと浮かんでいるみたいになった。
「じゃあ下の売店で買ってくるね。
しんどかったら、目瞑ってていいんだよ」
「うん、ありがと」
少し歪んでいた掛け布団を整えてあげてから、カードキーを持って部屋を後にした。
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晴(プロフ) - 名前しずくさん» あとがきまで読んでくださったんですね(^^) 2人はこれからもお互いを想いやっているはずです…！ 長らくのご愛読、ありがとうございました！ (2021年10月5日 19時) (
レス) id: 924db004c7 (このIDを非表示/違反報告)
名前しずく(プロフ) - 金平糖を贈る意味がとっても素敵で、お話にも合っているなあと感じました。今までお疲れ様でした。 (2021年10月4日 9時) (レス) @page44 id: 0ac6e112f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴 | 作成日時：2020年10月21日 20時
