3月23日11:17 ページ29
「この時間に食べたらお昼はもう入らないですかね」
「あー、そうかも」
松陽に呼ばれた銀時は握り飯と味噌汁を前に「いただきます」と手を合わせた。
ふわりと漂う味噌の香りは昔から変わらない。
松陽の作る味噌汁が銀時は好きだった。
「なぁーんか、ヅラも高杉も妙に板に付いてんのな」
「2人は良くやってくれていますよ」
嬉しそうに微笑む松陽の姿に銀時は目を伏せる。
自分もここに残っていたら今頃あの2人のように子ども達に囲まれ、慕われる日々を送っていたのだろうか。
もしもの話など考えても分からないが。
「ですが君もこの町に必要とされ、慕われている。その事実は変わらないでしょう?」
「そんな大層なモンじゃねーけどな」
人に誇れる生き方が出来たか、その問いに対しては「ノー」と答えるだろう。
ただ、自分に恥じない生き方だけはしてきたつもりだ。
松陽の目を見て、改めてそう思った。
「君の評判は私も聞きますし、君を頼りにしている人達も大勢います。劣っているなんて、そう考える必要はありませんよ」
「あんたって奴は本当に何でもお見通しだな」
師の前では隠し事など出来そうにない、銀時は自嘲気味に笑った。
そんな他愛ない話をしている中で、ふと先程の物置部屋を思い出して箸を進めていた手を止めた。
「そういや、さっきヅラの授業見てた時に思い出したんだけどさ。突き当たりの物置部屋、あそこ何が入ってんの?」
何気ないその問いに松陽の目が丸く見開かれた。
何かまずい事を聞いてしまったかと銀時の身体も固まる。
「まさか…開けたんですか?」
「い、いや……その前に呼ばれたし…」
珍しく狼狽えるような様子に感染したように銀時も辿々しく答えた。
その言葉を聞いた松陽がほっとしたように「なら良かった」と笑う。
「あの部屋には物が溢れていますから、開けた時に怪我をする子どもが居たりしましてね。元に戻すのも大変なので閉めっぱなしにしてるんです」
「あぁ、そんなこと」
聞けば、いつかにハマった海外ドラマや映画などのビデオが詰め込んであるらしい。
松陽は「つい買い過ぎてしまって」と情けなさそうに笑った。
「んな面白ぇんだ」
「えぇ、ただ飽き性なもので一度見たきりのものも多いですがね」
「俺は買ったら見直す派だけど。お気に入りのやつとか」
「それなら、もし同じものに見飽きてしまった時はまたここに来るといい」
何でも貸しますよ、と笑う松陽に「AVもある?」と聞いたら久々にゲンコツを落とされた。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - えだまめンヌ。さん» 心温まるメッセージありがとうございます!私生活との兼ね合いで中々こちらにお邪魔できない状況が続いていますが、えだまめンヌ。様の言葉を励みに頑張っていきたいと思います〜! (2020年6月20日 21時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - ↓「作品だったとは」の後に「…」を入れるの忘れてしまい変な文章になってしまいました。地味に地味ーに誤字っちゃいました笑すみません! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - こんなに色々考えさせられる作品だったとは軽い気持ちで読んだのですが、もう完全にハマっちゃいました。応援しています!!長文失礼致しましたm(_ _)m (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - けれど、ここにきて予期せぬ展開ばかり起こっていて、ん?ん?となんとか自分なりに考察しながら読み進めています笑どんな結末になるんだろう…!?最後に話が1つに繋がってスカッとなる瞬間がくるのを今から待ち焦がれています! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
えだまめンヌ。 - えええ…。とってもとっても続きが気になります!!初めは本当に「なんじゃこりゃ?」ってなって、あとがきを読んでましろさんにしめしめと一本取られていたとわかったときは少ーし腹が立ちました笑 (2020年6月18日 20時) (レス) id: 510c711c3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2019年5月26日 21時