【風見裕也】ハロー、幸せ世界 (ページ6)

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Case.04 ページ6

廊下である人を遠目に確認した私は、まるで警察に追われている犯人がごとくの反射速度で近くの曲がり角に隠れた。

「降谷さん、目を通していただきたい書類がいくつかありますので、後程お渡しいたします」

「ああ、わかった」

「それとこの間の強盗の件ですが…」

降.谷.零。公安直属の、有能な青年。

年齢よりいくばか若く見えるその容姿に胸を高鳴らせる女性は少なくない。

でも別に全員でもない。

いや、別に苦手だとか嫌いだとか、そういうのではない。連絡先を交換している仲ではある(互いに仕事用だけど)。

ただ直接会うのは、ちょっとめんどくさいのだ。

近付いてくるのを確認して私は一度壁伝いに奥へ進んだ。

こちらに曲がってこなければやり過ごせる、と思う。

しかしさすがエリート、そんな生優しくなかった。

「そういえば風見」

「はい？」

「二ノ瀬が凶器を持ったひったくりを一人で逮捕したそうだな」

足を止め、正面を向いたまま先日のひったくり事件の話題を出す。ああ、マズいぞう…

「え、ええ…」

「いやあ、鈍っていないよう、でっ」

『っ……！！』

真っ直ぐにこちらに振り上げられた足を反射的に右手で受ける。

その足を流し、本命であろう右拳を身を低くして躱す。

その体制から踏ん張り、足払いをするが難なく躱されその足を掴まれた挙句引かれた。

『……………参りました』

「ボクシングが得意だから足を狙うというのは悪くはないが、後先のない動きは感心しないな」

会うと必ず行われる戦闘チェック。ダメ出ししか貰えないので私はこれが酷く嫌いだった。

「今回はちゃんと履いてるんだな」

『セクハラですよ、いつも履いてます』

「男のロマンとやらがないんだなあ」

『貴方もそんなの持ってたんですか、人の下着見ても表情一つ動かなかったのに』

「…………口は達者だなあ」

「あの」

それまで近くで一連のやりとりを見ていた裕也が、メガネのブリッジを上げる。

「いつまでそうしてるんでしょう」

客観的に見れば、降谷さんは床に座り込んだ女性(スカート着用)の片足を持ち上げ、平気で会話する危ないお巡りさんだった。