乙女椿がおちたから【オリジナル】【創作】【男主】 (ページ11)

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回想ページ11

椿の死因は、服毒による自害だった。
毒といっても、睡眠薬だが。

俺が椿と数年ぶりに対面した日、実に事件の当日である。
時計の針は深夜3時を示していた。

まだ日付が変わる前の事だ。

椿から電話が掛かってきたのだ。椿は、ストーカーされた事、自害しようとしている事などを語った。

通話が終わった瞬間俺は半ば飛び出すように首都にある家から、実家のある地方まで来ていた。

椿の為に。

逢瀬と言うべきなのか。ある意味ロマンチックなのだろうが、今の俺達にロマンなどあるはずがなかった。

なにせ、これから加害者になる二人なのだから。

気を紛らす為に自害をする理由を訊ねれば、

「人生に飽きた」のだと、単調に、軽率に言った。わかりやすく言えば「ちょっとコンビニ行くねー」のノリだった。

人生相談のような重苦しい雰囲気はなく、端から見れば、仲睦まじい恋人のような雰囲気だっただろう。

椿はそれほどに落ち着いていたのだった。

電話口の向こうで切羽詰まったように『たすけて』と言った椿をふと思い出す。その声は酷く怯えていた。

それを聞いた俺は、丁度良い、と思った。
俺は昔から椿が俺のものであれば良いと思っていたからだ。

その後、椿は立ち上がり、唐突に俺に言った。
「私の事は好きにして良いから。斬るなり焼くなり好きにして。」
と。

次の瞬間、椿は驚いて声の出ない俺を他所に倒れ込んだ。
椿は、市販薬の多量摂取で、失神していた。

まだ息はあったのだろうが、それに気づかなかった俺は、椿の言う通り、好きにした。

まだ暖かい椿の唇に触れるだけのキスをした。
カサついた感触が生ぬるい体温を含み、妙にリアルだった。
俺は恋愛経験がないためか下手だった。

俺のファーストキスは、レモンの味もチョコの味もしなかった。
ただ、椿の匂いが鼻腔を擽ったのみだった。

それからは、椿を倉庫まで運び、

花首を斬り落とし、用意しておいたホルマリンを注射した。

椿の滑らかな肢体は、写真に撮り、保存した。
もう二度と見ることが出来ないからだ。

俺は冷静だった。愛する人を殺したというのに、涙はひとつも出なかった。

椿の頬を濡らすのは、椿の涙のみだったのだ。
俺の頬は、少し肌寒い風で乾いて往くだけだった。

椿の花首を抱え歩く俺は不気味なものだっただろう。
俺はその足で、実家のある地方から、仕事場のある都心部まで帰った。

※睡眠薬は多量摂取しても死にません。
くれぐれも真似などはしないで下さい。