ご近所付き合いはじめました。【Fischer's】

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この部屋に越してきて、早いものでもう一月が経とうとしている今。日頃大学生としての勉強で……というよりはバイト三昧で家に帰る時間もまちまちな、この歳にして早くも仕事に明け暮れる生活をしている中、今日はどのバイトもたまたまOFFで、さらに大学の授業一時限目をもって終了。私の今日の予定は完了した。

『……なんかこんなゆっくりなん落ち着かんねぇ』

そう独りごちていると、いくつ歳をとっても全く衰えを感じさせないその聴力のよさが発揮されているおばあちゃんに「そんならお隣さんにこれ届けておいで」と御使いにされた。
今日初めて知ったことだが、この頃おばあちゃんは作りすぎた料理はタッパーに詰めて左隣の人に渡しているという。余ったら翌日の朝食やお昼に回せるから、と多めに作ってしまう癖があるものの結局食材の朽ちるスピードに間に合わずに捨てざるを得なかったことも多々あったので、もらってもらう分には何も文句はない。

『そういえばお隣さんの挨拶とか、全部おばあちゃんに任せてたな……。まあ家にいる時間おばあちゃんの方が断然長いけどさ、』

またも独り言を呟いて、それから目の前のインターホンを押す。ﾋﾟｰﾝﾎﾟｰﾝとありきたりな音が響くと、はいはーい、と男性の声がくぐもって聞こえてきた。

ああお隣さんは男の人なのか、まあ何かあったら助けてもらえるかな、なんて考えていられたのは、この扉が開くまでだったのだ。


ﾏｻｲ「はい……え」
『……………………え？』


固まる、ってこういうことなんだと思う。

だってお隣さんに、

“あの”Fischer'sのマサイがいたなんて。


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どれぐらい沈黙しただろうか。


ﾏｻｲ「……あの。お隣さんですか？」
『えっ』
ﾏｻｲ「そうじゃなければ……うちにどういったご用件で？」

動画とはうってかわって冷たいその声を聞いた瞬間、今度は一気に冷静になった。これは、リスナーが押し掛けてきたと勘違いしているのか、と。
数ヶ月前に出された例の動画では、今自分の目の前にいる彼ではないけれどこのグループのリーダーさんに女性リスナーが押し掛けていた。その一例がある限り、今の私も間違いなくその類いだと思われるだろう。

どうするべきか。
今既に私が黙ってしまっているあたり、ますます展開は悪くなっているはずだ。しかし早急に言葉を発そうとしても、何を言えばいいの何を。

考えた末の行動は、まさに暴挙だった。

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