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BGMは、花の歌。
おばあちゃんがよくかけていた、数少ない私の知っている、そして大好きなクラシック曲。
誰かと落ち着いて話がしたいとき、私は必ず
大事な時だからこそ大好きな曲と、大好きな場所の空気を全部吸い込んでしまいたくて、深呼吸を一つ大きくしてから、マサイさんの目を見た。
『お話、しても大丈夫ですか?』
ああ、今マサイさんはどんな気持ちなんだろう。
悲しみを帯びた、でももっと残酷な。見たことはないけれど、まるで自分の命が明日終わると告げられた人のような、そのくらい大きなショックを受けた瞳。大きく凛々しい瞳が、さっきからずっと、その色に染められたまま。
静かに頷くマサイさんを確認してから、私は温もりとほんの少しの勇気を求めて、淀んだミルクティーの入ったカップに指先でだけ触れた。
『私の話……私が、おばあちゃんと一緒に暮らす前の話を、聞いたんだと思います。正直、驚きました。おばあちゃんは、これまでどんな人にも、親戚でさえも私の本当の話はせずに通してきたから……おばあちゃんは、いつも私を守ってくれていたから』
あ、今の言い方はまずかったかな。
これじゃまるで。
『今は……今は、私を守ってくれる……頼ってくれて、話してくれて、一緒に笑ってくれる存在が、マサイさんで。それをおばあちゃんも、分かってくれていたんですね……』
こう言えば……うん、伝わった、みたい。
早くその瞳を元の、かっこよくて澄んだ瞳に戻さないと。いや、戻してあげたい。
『私は、過去の話に今までたくさん泣いて……いや、泣かされました。記憶が曖昧な過去なんかに。でもそれは本当の意味で弱い人間がすることなんだって、私は自分自身にそうケジメをつけて、それからは前を向けて……
初めは無理矢理だったかもしれないけれど、それでも前を向いていたから今の幸せがある。私は今、幸せです。それはもう、人生で一番って言いきれるほどに。……どうしてか、マサイさんは分かりますか?』
固まったままのマサイさんに、私の、心からの笑顔を。あなたは、私を救ってくれたから。
『マサイさん。あなたと出会えたから、あなたが声を荒げてしまうくらい、私の話を聞いてくれたから、です。ありがとうございます』
指先からではなくて、ようやく、目の前と私の内側から、温もりを感じられた。
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いちごだいふく(プロフ) - hina4428さん» コメントありがとうございます!気になるところで長い間止めてしまっていました……ただいま更新しましたのでぜひ読んでいただければ嬉しいです! (2019年8月27日 16時) (レス) id: 619c5266ec (このIDを非表示/違反報告)
hina4428 - きになるっ!…続きがっ…気になるぞぉぉぉぉぉ!!!更新待ってます! (2019年8月15日 21時) (レス) id: bd94ce952c (このIDを非表示/違反報告)
いちごだいふく(プロフ) - めろこさん» コメントありがとうございます!そしてなんて嬉しいお言葉……!これからも頑張ります! (2019年5月29日 20時) (レス) id: 0069fa8620 (このIDを非表示/違反報告)
めろこ - いちごだいふくさまおかえりなさい。最近読み始めてまた更新して下さうことを楽しみにしておりました。これからの更新楽しみにしております! (2019年5月28日 22時) (レス) id: 9c37dcd8ea (このIDを非表示/違反報告)
いちごだいふく(プロフ) - ハルキさん» コメントありがとうございます!!嬉しい限りです、これからも頑張ります!(^^) (2019年3月24日 11時) (レス) id: 0069fa8620 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いちごだいふくlike | 作成日時:2018年12月5日 22時