彼の隣席【フロイド】

32日目 ページ34

｢ねぇ、ジェイド｣
｢なんですか、フロイド｣
｢クラゲちゃんのあのドレス、提案したのジェイドだったよねぇ｣
｢…えぇ。彼女は密かに人気ですし、集客できるかと｣
｢最初はかわいーからいいなって思ってたけど、次そーゆーことでクラゲちゃんを使ったら許さねぇ｣
｢分かりましたよ。Aにも怒られましたしね｣
｢あとさー、8番テーブルにいた奴ら出禁にしてくんね。うぜぇし｣
｢それは僕も同感です。アズールに言っておきましょう｣
｢元はと言えばジェイドのせいだけどね｣
｢耳が痛いですね｣


店も大分落ち着いていた頃、フロイドが珍しくジェイドの文句を垂れた。しかも本人に向かって。フロイドに自分の事をネチネチと言われるのはあまり慣れていないジェイドは苦笑い。それを見兼ねたAが、お疲れ様と2人にドリンクを出した。


｢フロイド、もうその辺にしてあげたら、？｣
｢クラゲちゃんちょー優しいじゃん。怒ってねーの？｣
｢ん、もうきっちり仕返ししたから別に｣
｢なるほどね〜。それならオレももう言わね｣
｢助かります｣
｢でもね、このドレスのおかげかは分かんないけど、今日の売上すごいよぉ？｣
｢現段階でいつもの３倍ですね｣
｢そんなの知らねーし｣


ガッとグラスの飲み物をあおり、未だに不機嫌そうにカウンターを指でトントンと強くつついた。おまけに時折荒く溜息をつくものだから、店内の客は大半が怯えてしまっている。特にフロイドの近くのカウンター席に座っている生徒はビクビクと背筋を強ばらせ、可哀想なほど冷や汗をかいていた。


｢あーアイツらマジでムカつく。なんか飴とかをガリッってしたい気分。クラゲちゃん購買行こ｣
｢いいけど、ホール足らなくない？｣
｢知らね。けどもーすこしでアズールも売上げの徴収から帰ってくるっしょ。もう出店の片付け終わってるしぃ。ジェイドがてきとーに言っておいてよ｣
｢分かりました。今日はフロイドに大人しく従いましょう｣


その返事を聞くやいなや、フロイドはAの手を引いて大股にラウンジを出ていく。その扉が完全に閉まると、客達はホッと胸を撫で下ろした。その後ジェイドはこの一連の流れで顧客満足度が下がっては、後でアズールにドヤされる、それは面倒だなと考えた末、各テーブルに｢お詫びです｣と小さなアイスを配って回った。ちなみに、特段震えていたカウンターの彼には｢申し訳ありません｣だなんて言葉を添えてドリンクを一杯奢った。

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