彼の隣席【フロイド】

29日目 ページ31

前方に現れたのは大きな地割れ。幻覚魔法か、それとも本物か。ぐっと目を凝らして見極める。ぐらりと目の端に映るものが一瞬揺らいだ。あれは。


｢フロイド！幻覚です！｣
｢おっけ〜｣


ディスクを持ったフロイドがそのままゴールへと突進する。ふといくつかの影が地面を暗くした。パッと上を見ると、箒に跨った相手チームの何人かが束になってフロイドに向かっていく姿が。ゲームも終盤だ。ここらで大きな魔法を使ってもいいだろう。ヒョイｯとマジカルペンを大きく振って、水を発現させた。前方を走っていたフロイドがちらりと自分の方を見る。そして、ニィと楽しそうな笑みを浮かべた。


｢今回は僕に任せて貰えますか、フロイド！｣
｢いいよぉ〜ジェイド〜！何すんのぉ〜？｣


自分の頭上にある大きな水の塊を相手チームに投げつけた。フロイドは、僕が何をしたいか察してくれたのかマジカルペンを強く振った。その瞬間。


｢ギャアッ！！｣


耳を劈くような爆音と眩い程の閃光。バキャッと何かが地面に叩きつけられたような音と共に、水のかかった相手チームの何人かが悲鳴をあげ、次々箒から落ちていく。その間にフロイドは余裕にゴールにディスクを叩き込んだ。ピピーッとホイッスルが鳴り、試合は終了。結果は1点差での勝利。興奮冷めやらない、といったフロイドが笑いながら近づいてきた。


｢最後のアレ、ちょー最高だったねぇ｣
｢ふふ、とても楽しかったですね｣
｢おい！リーチ兄弟！最後のは反則だろ！｣
｢オレたち別に選手狙った訳じゃねぇし〜！箒を感電させただけだし。ねぇジェイド｣
｢えぇフロイド。ほら、貴方も"うっかり"箒から落ちた時の怪我があるだけじゃないですか｣


びちょ濡れになった相手チームのひとりがイチャモンを付けてくるが、それを軽くいなして選手の控え室へと戻る。その後もぎゃあぎゃあと喚いていたが、前をご機嫌で歩くフロイドには聞こえていないらしい。そして、あ〜！クラゲちゃんだぁ！と先に控え室に入った彼が嬉しそうな声をあげた。僕も続けて入ると、そこには例の特別衣装を着たAが、ギロりとコチラを睨んできていた。


｢クラゲちゃんちょー可愛いんだけど！！ジェイドがやったの？｣
｢えぇ。気に入って頂けて何よりです｣
｢私はジェイドの着せ替え人形じゃないんだけど？｣
｢そんな事思ってませんよ｣
｢このお代は高くつくから｣


僕はまた、Aを怒らせてしまったようです。

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