漆 ページ29
部屋に慌てて入って来た、織田先生に校長、ラドヤード先生だった。
(良かった…無事だったのか)
どうやらそう遠くに飛ばされたというわけでもなかったらしい。差し詰め飛ばされたラドヤード先生が校長に助けを求めに行った、なんてところなんだろう。
「随分と…遅かったですね」
自分でも驚いていた。
私は笑っていた。
「…ッ、彼女の身柄を拘束する。どいてくれ太宰」
私はもう用が無かったから、織田先生の指示に素直に従った。彼が佐々城に「インカーセラス」を唱えるのを、私は黙って見ていた。校長が中也に、ラドヤード先生が私に駆け寄る。
「大丈夫か太宰!?」
私は彼と初めて会った日の事を思い出して、また笑ってしまった。「おはよう、諸君」なんて云ったんだっけ。彼は今その時と同じくらいに頓珍漢な事を云っている。
(先生、私は見ての通りボロボロなのよ。そんな女の子が大丈夫に見える?)
そう云いたかった。けれどそう云う前に、私を何だか奇妙な衝動が襲った。何だか、臓器を全て下に引っ張られているような、不思議な心地…下に…下に…。
気がつくと、目の前に二つの黒い円が浮かんでいた。その中に金色の星が一つずつキラキラ光っている。
「…つくづく災難な目に遭うな、お前。学期の最初と最後、ここで目ェ覚ました奴なんて初めて見たぜ俺ァ」
あれ、星が喋ってる。瞬きをする。あれ、星じゃない。眼鏡だ。目だ。もういっぺん瞬きをした。目の前に、山本先生が立っていた。見つめていると、先程まで自分の身に起こった事が走馬灯のように頭を流れた。
「あの先生、私…」
「静かにしろィ、隣が起きちまうだろうが」
私が辺りを見回すと、右隣の寝台に中原少年が寝ていた。グースカいびきを掻いて、結構すごい寝相だった。掛け布団がくしゃくしゃになっている。私が呆れて眺めていたら、「慣れねェ魔法を大分使ってたから疲れが出たんだろ」と先生が補足した。まるで一部始終を見ていたかのような言いように私は首を傾げた。
「それと一応云っとくがな、児童生徒に開心術を使うのァ、日本魔法界の法で禁止されてる」
私が目を丸くさせると、山本先生は「大人ってのァ狡い生きモンだろ」と笑った。つまり、この法を遵守している教師はあまりいないようだ。
でも…私は云い出すのを躊躇ったが、意を決して言葉を紡いだ。
「…私には、開心術を使っても意味ないんですよね。そうでしょう?」
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サラ(プロフ) - しぇるふぃあ。さん» こんな細かい描写にも気づいて頂けるなんて物書き冥利につきます!消せませんよ、でもここでは説明し切れないので後日改めて説明させて頂きますね! (2018年12月13日 20時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - しぇるふぃあ。さん» お久しぶりです。しぇるふぃあ。さん、すごく読んで頂いているようなのでとても嬉しいです、ありがとうございます。 (2018年12月13日 20時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。 - ところで夢主ちゃんは前世が国語教師なのですよね?だったら41pに出てくる安吾さんの名前は知ってるはず…と違和感を覚えました(・・?) はっもしや伏線?ネタバレに触れるようでしたらこのコメントはそっ消ししてくださいm(_ _)m これからも陰ながら応援してます!! (2018年12月13日 19時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。 - お久しぶりです!しばらく顔を出せなかった間にすごく進んでて一気読み不可避でした…あんまり好きポインツ語るとコメ欄ネタバレになるので控えますが仲直り本当に良かったです(ネタバレ) (2018年12月13日 19時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - 紫苑さん» 応援ありがとうございます!頑張らせていただきます! (2018年12月2日 23時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サラ | 作成日時:2018年9月20日 12時