いとしいとしというこころ ／ knsm ページ19
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あぁ、これは夢の中だ。根拠も何もなく、ただそう思った。
淡い色の絵具を垂らしたような儚さが残る風景に、夏祭りの夜だということに気が付く。
祭囃子が子供たちを急かす様に響き渡って、何処からか屋台の人の呼び声がする。
何処も彼処も賑わう中を手を繋いで歩くカップル、その横を通り抜けて歩く二つの影が目についた。
ふたりの子供は、お互い浴衣なんてものも着ていない。それがこの景色からは少し浮いて見えた。手を引かれる女の子と、手を引く男の子。よく見たら引っ張られている女の子は、俯いて泣きじゃくっていた。でも、男の子は歩き続けている。
そうして。夏祭りの会場のその奥。神社の鳥居の前で立ち止まり、男の子は女の子の方へようやく振り返った。
祭囃子と人々の声、それとも夢の中だからだろうか。二人の声は聞こえない。でも、声は聞こえずともいつになっても止まらない涙に男の子はとても戸惑っているように見えた。
ふと、男の子はズボンのポケットに手を突っ込んだ。そして取り出した手を女の子の前で開いて見せる。小さな手のひらに乗せられているのは、おもちゃの指輪だった。
――あ、この指輪。
その瞬間、世界の音が消えて。代わりに今まで聞こえなかった声が直ぐ傍で聞こえてくる。
「これお前にやる。これがあれば、また会える。やから泣き止んでや」
男の子が女の子の手を取った。指先で開かせた手のひらに指輪を置く。手のひらの中に落ちてきた指輪に女の子は、――私は、涙を止めた。
手の中で光る指輪を見て私は、顔を上げて嗚咽を含ませながらも「ありがとう」と下手な笑みを浮かべると、
男の子は嬉しそうに笑ってくれた。
＊
耳元で響くアラーム。いつの間にか開けていた目は白い天井を捉えていた。
スマホをタップしてアラームを止めると脚を浮かせてそれを再び下げた勢いに任せてベットから体を起こす。
床の上に足の裏をつけるとひんやりと冷たい。立ち上がって伸びをすると幾分か眠気は晴れていった。
「…懐かしい夢、見たなあ」
昔々の夏祭りの夜。私の淡い初恋の人との記憶。
スーツのポケットを漁って取り出したお守り袋。紐を緩めて逆にすれば手のひらに夢と同じ指輪が落ちてきた。
もう今の私のどこの指にも嵌らない小さな指輪には、ガラスでできた赤い宝石がついている。
あれからどれだけ経ったのだろう。
あれからあの初恋の人に一度も会えないまま、いつの間にか私は大人になっていた。
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ももね(プロフ) - りんごさん» ありがとうございます！喜んでくださったようでうれしく思います。私自身も「お友達から始めませんか、」は特にお気に入りのお話でしたので続編を書くのはとても楽しかったです！この度はリクエストありがとうございました！ (2020年5月14日 22時) (
レス) id: 2fa0c60296 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - ももねさん» ももね様！リク消化ありがとうございます！もう好きすぎて言葉に表せないくらい好きです！ももね様！本当にありがとうございました！愛してます！ (2020年5月13日 22時) (レス) id: ed57538bc3 (このIDを非表示/違反報告)
ももね(プロフ) - 天真爛漫さん» ありがとうございます！天真爛漫さまのご希望に添えたなら幸いです。今後ともよろしくお願いします！ (2020年5月8日 10時) (レス) id: 2fa0c60296 (このIDを非表示/違反報告)
天真爛漫 - 作者様、素敵な作品を書くてくださり、ありがとうございました！！ (2020年5月6日 21時) (レス) id: 545c0410b5 (このIDを非表示/違反報告)
ももね(プロフ) - りんごさん» はじめまして！コメントありがとうございます。ありがとうございます…！好きなフレーズを題名にさせてもらいました！^^リクエスト承りました！執筆が完了次第投稿させていただきます。よろしくお願いします！ (2020年5月3日 23時) (レス) id: 2fa0c60296 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ももね | 作成日時：2020年4月13日 19時
