エイトの籠の鳥3 (ページ39)

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拈華微笑ページ39

「あら、めずらしいお客さんじゃない。」

「…ご無沙汰してます。」

あれから数日、

一人悩んでも答えは出なくて、

けれど現状維持という訳にもいかず、

結論が出ず、

どうしたら良いか

悩みに悩んで、

半年ぶりに女将さんの店に足を運ぶことにした。

客足が落ち着く頃の時間帯を見計らって店の暖簾をくぐると、
女将さんは一瞬目を丸くさせた後、いつもの優しい笑顔で私を迎えてくれた。

「どうした～？

うまくやってる？」

「…はい。」

久しぶりに会ったのに、
あの頃と変わらない対応をしてくれる女将さんに心が温かくなった。

「何か悩みがあるから来たんでしょう。

仕事、うまくいってないの？」

「あ…いえ。」

『仕事してないです』とは返せなかった。

「じゃあ、な～に？」

「……その、

大切に思う方がいて…」

「あら、恋愛話？

Aちゃんからそんな話されるなんて感慨深いわぁ…

どんな人？イケメン？」

「そう、ですね…」

「片思い中？」

「あ、いえ…
そんなこともないと思うんですが…

その…」

「なに？」

「1人ではなくて…」

「きゃ～‼‼二股⁉
Aちゃん大胆～‼」

「………7人、なんです。」

「7人⁉⁉」

「どなたか1人にしなくてはと、思って…」

「それはそうよね～」

「ですが、決められなくて…」

「それで相談に来た、と。」

「はい…すみません。」

「なぁんだ、そんなことかぁ～。

そんなの簡単なことじゃない。

あなたが目を閉じて、
一番はじめに頭に浮かんだ人。

それがあなたの選んだ人よ。

私が旦那を選んだようにね♪」

女将さんは最後はウインクして、私にそう教えてくれた。

女将さんの御主人の話は、あまり聞いたことがなかった。
病気ですでに他界されている、ということくらい。

…きっと素敵な方だったんだろう。

(眼を閉じて、はじめに浮かんだ人)

女将さんに言われるがまま眼を閉じた。

浮かんだ彼の笑顔。

そうか、

私が選んだのは、

彼。