エイトの籠の鳥3 (ページ13)

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「場所…移動しないか？」

驚きでまだ一言も発せられない私は、
彼の言葉にただ頷いた。

モール内のカフェに移動し運ばれたコーヒーを口に運ぶと、
少し気持ちが落ち着いた。

私とは違って、いつも明るく穏やかだった彼。

小さい頃から、施設内の自分より幼い子供を率先して面倒をみるような優しい人だった。

いつも隣にいた私は、いつしかそんな彼に憧れを抱き、ある日突然の彼からの告白を受け入れた。

なぜ私なんかを選んだのか、
あの時はわからなかった。

けれど今思えば、
心の奥底に眠る寂しさ、
不足していた愛情をお互いに補い合っていたのかもしれない。

…傷を舐め合うように…

彼は『必ず迎えに来るから待ってて』と言い残し、
私が施設を出る一年前に出ていった。

あの時は待とうと決めていた…
けれど、彼がいなくなってから、
彼に好意を寄せていた他の施設者からの風当たりが強くなり、出て行くことを余儀なくされた。

それ以降、連絡を取るすべを持ち合わせていなかった私は、彼と会うことはなかった。

「…久しぶり、だね。」

「だな。

急に店入っちゃったけど、連れがいた？」

「ううん。」

「そっか。」

「…智樹は？」

「俺は、このモール内の店舗で働いてるの。

で、今は休憩中。」

彼は首から下がった社員証を手に持ち、
プラプラと振りながら笑ってみせた。

あの頃と変わらない笑顔に思わず私もつられて、
微笑んだ。

「そんな顔、…するようになったんだ。」

「え？」

ボソッと言った彼の言葉が聞き取れず、聞き返した。

「なんでも、ないよ。」