× ページ10
「…………」
「…………」
帰り道車の中。二人とも口を開かない。というか口を開く気が起きないのだ。
渋滞に捕まったのである。
車内冷房を入れてはいるが夏真っ盛りの元気な太陽が相手となればそれも無力。おまけに渋滞により連なる車の熱気で空気がもんもんとたちこめている。数メートル先の景色が鉄板の上のようにゆらゆらと揺れていてマジかよと思った。左手に見える海だけが唯一の癒しだった。
運転席に座る総統はジャケットなんて既に脱ぎ、ネクタイを緩めて腕まくりをしている。ハンドルに腕を乗せて猫背になっている姿は確かに胸キュンを誘うのかもしれないが、それは落ち着いてる頭だからこそ感じられることだ。正直こっちも暑さでそれどころじゃない。
『この先、500m、渋滞です』
カーナビが無味な声色で告げた瞬間、総統が身に纏う空気が変わった。
……なにやらぷちんという音が聞こえた気がする。
「あ、あの総統……？」
「黙ってろ。舌噛むぞ」
「え────うわっ！」
総統は低い声でそう呟き、左手でセレクトレバーに触れたかと思うとそれをガコッと引っ張った。
成人してるくせに免許を持っていない私には車のことはよくわからないが、とりあえず車が動き出したということは体の動きでわかる。けれども、初動でバランスを崩した瞬間、運悪く右手でシートベルトの下部に手をついてしまった。赤いボタンに親指がはまりシートベルトはするすると回収されていく。
体がより一層大きく跳ねて身の危険を感じたのだが、
ふと、右側から何かが後ろに入り込んできた。
自分で安全を確保しようと身をよじってもそれより先に左腰を掴まれる。そのままグッと引き寄せられて私は隣にいるやつと密着した。左腰に添えられているのは紛れもなく総統の左手だった。
「────っ総統！運転！！」
「安心しろ、もうハンドル切るだけだ。左手は使わない」
「全っ然安心できません！！」
「失礼なやつだな。これでも結構運転上手いんだぞおれ」
「ちょっとこっち向かなっ……！前見て運転してください！」
「へいへーい」
腰に添えられた手と耳元で聞こえてくる声、密着する体。違う意味で身の危険を感じていた。平然としている総統とは対照的に私は心臓が爆発しそうだ。彼が乱暴な運転による恐怖と解釈してくれているのが唯一の救いだった。
……そしてネクタイ緩めてんの、やっぱりよくない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 271人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
H2O(プロフ) - スパダリ総統たまらんです…思わずコメントしました失礼しました|ω･) (2018年5月11日 21時) (
レス) id: b0c2c544a7 (このIDを非表示/違反報告)
本田大和(プロフ) - 【鶴が恩着せがましい】の時から大ファンです(＊ﾟ∀ﾟ)ﾉｼ 雛菊様の描く大人っぽい総統も、悪戯っ子な総統も大好きです。更新楽しみにしています(*- -)(*_ _)ペコリ (2017年9月12日 8時) (レス) id: 877adbc8dc (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - 恋桜さん» れのんちゃん度々ありがとう！毎回土下座して頭擦りきれないでね……！ (2017年9月10日 22時) (レス) id: 8cd2470719 (このIDを非表示/違反報告)
恋桜(プロフ) - 雛菊ちゃんの書くwrwrの皆さんが本当に好きです…！！！！！！(スライディング土下座) (2017年9月10日 21時) (レス) id: 848286cce8 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - ピポさん» いつもコメントりがとうございます。頑張ります……！ (2017年9月10日 19時) (レス) id: 8cd2470719 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雛菊
| 作成日時：2017年9月10日 18時
