【バケモノの子】人間の世界で育ったバケモノのお話【壱】 (ページ3)

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2.白狼のバケモノページ3

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side無し

｢えッーー｣

信じられない。
だって目の前に立っている訳では無かったのに、いつの間にか接近していた。
ブギャアと、潰れたような声をあげてバケモノが吹っ飛んでいく。その拍子に空中に投げ出された九太はしっかりとキャッチされて片腕で抱き抱えられた。

『大丈夫？怪我は無い？』

｢え……う、うん｣

それにしてもこのバケモノ、相当大きい。熊徹くらいあるんじゃないか。
必然的に見上げる形になり、ボロ切れの下から見える長い口の端が嬉しそうに釣り上がったのが分かった。

『良かった、やっと同族に会えた』

｢同族……？｣

｢いつつつ……何しやがんだ！！｣

『君、しっかり掴まっておいてね。
怖いのなら目を瞑っておきなさい』

｢ハッ、良く言うぜ。
そんなに血の匂いをプンプン漂わせておいてよォ！！｣

｢え……｣

パッ、とバケモノを見上げる。
否定も肯定もせず、黙ったままだ。
じわ、と九太の服に面した部分に濡れた感触が広がる。間違いない、血だ。

｢怪我してるの……？｣

『これくらいどうって事ないよ。
私はまだまだ走り続けられる』

ギュウ、と温もりを確かめるように九太の尻を支える手に力が籠った。

殲滅自体は五分程度で終わった。

その間もバケモノは一度も九太を手放す事無く、はたまた傷一つすら負わす事無く雷鳴のような一撃で次々と伸して行った。しかし忘れてはならないのは、バケモノは手負いなのだ。
それも激しく動き回ったとあれば。

『……ごめん、ちょっと降りてもらっても大丈夫かな？それとも疲れて歩けない？』

｢いや、大丈夫……だけど｣

『そっか』

ハァ、と疲労と苦痛を滲ませた吐息が夜闇の中に吸い込まれていく。降ろされた先で不意に振り返れば、朧気ながら地面に点々と跡を残す血痕が見えてザッと青ざめる。

『…君は、大丈夫？』

｢え？｣

『私の事、怖くない？力の強いバケモノだって』

｢怖くは……無いよ。
多分｣

『そう、良かった』

安堵したような笑みと共に、そろりと鋭い爪の生えた指が一本だけ差し出される。まるで傷付ける事を恐れているように。
ほんの少しだけ躊躇いながらも、差し出された人差し指をキュウと柔く握った。