1.バケモノの子 ページ2
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side無し
ーーそれは、何度目かの喧嘩で家を飛び出した夜だった。
熊徹の怒号が背中を追い掛けてくる。
生温い風が責め立てるように頬を撫で、やるせなさに気付けば何処か知らない道の隅で蹲っていた。
｢キュウ？｣
｢あぁうん、大丈夫だよチコ。
熊徹の奴、精々俺が居なくなって慌てふためけば良いんだ…｣
けれど、硬い床で布も無しに眠るのは少々憚られる。
そろそろ帰ってやろうかと、立ち上がった時だった。あれ、と九太は声をあげた。
｢…どっちから来たんだっけ？｣
右から来たか、左から来たか。
渋天街に入る道のような入り組んだ道を我武者羅に走っていたら、気付けば道が分からなくなってしまった。何処を見ても、同じ道に見える。
ふつ、と首筋に冷や汗が垂れた時だった。
｢おい｣
｢！熊徹ーー｣
｢お前、人間のガキか？｣
｢…ッ！｣
低い声に熊徹かと思い振り返れば、そこに居たのは明らかにチンピラ風のバケモノ。
各々獲物を手に取り、眼光がギラギラと輝いているのは暗い闇の中でもよく分かった。
逃げなければ、と本能が告げている。
反射的に駆け出した九太の襟元をバケモノの大きな手が引っ掴んだ。
｢！は、離せッ！｣
｢珍しいなァ、こんなとこに人間のガキが居るなんてよォ｣
｢こいつどうする？精肉屋にでも売っぱらうか？｣
｢いや、表の店は次期宗師候補サマが正義ヅラで見回っていやがる。
かといってこの辺の奴は駄目だ、どーせ色々ケチつけられて二束三文で買われるに決まってる。
となるとーー｣
ニタァ、とチンピラ達は意地悪く笑った。
｢証拠隠滅しか、無いよなァ？｣
｢俺がさっき賭け事で勝ったから、俺モツな｣
｢あっ、ずるいぞテメェ。
俺は足だな｣
｢俺は骨だなァ、コリコリしててうめェんだ、ヒヒヒッ｣
｢ッ！た、助けーー｣
『何をしているの』
不意に、凛とした声が響く。
灰色のボロ切れを頭から被った大柄なバケモノが、物音一つ立てずそこにいつの間にかそこに立っていた。ボロ切れから微かに零れるそれは月明かりのような白銀の毛皮で。
その場の誰もが、そのバケモノの纏う異様な雰囲気に呑まれていた。
次の瞬間、九太を捕まえたバケモノの顔面に鈍い音を立てながら拳がめり込んだ。
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作者名：花草 アゲハ | 作成日時：2023年9月18日 1時
