拾漆.初々しい?うるせーやい! ページ21
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夢主side
…………これは流石に、想定外だ。
ウキウキで準備する旦那様に何の口も挟む事が出来ず、あれよあれよという間に初の逢引きまでこぎつけてしまった。
……けどそうか、これが普通の夫婦の在り方なのか。
逢瀬を重ね、言葉を交わし、愛を深める。
(……案外、嫌いじゃない)
煉「紬、何か食べたい物や行きたい場所はあるか?」
『いえ、私は……』
煉「何でも言うといい」
見上げると、凄く優しい顔をしている。
何となく見てられなくて、目線を下に落とす。
食べたい物や行きたい場所、か……。
ふ、と隣を見る。
いつもの隊服では無く、褐色の着物に炎の羽織を肩に掛けた品のいい格好をしていた。
…………紛れもなく、私服。
『────旦那様となら、何処へでも』
つい、ポロリと零してしまったその言葉。
言った瞬間サッと顔から熱が逃げていき、自分が墓穴を掘ってしまったのを瞬時に理解した。
しくじった、無難に甘味屋って言えば良かった……!!
煉「…そうか、そうだな」
煉「───君となら、何処へでも行けそうな気がする」
(…………あ、)
見上げてパチリ、瞬きを一つ。
(……優しい、笑顔だ)
雨上がりの太陽のような、春の陽光のような、優しい笑顔。
じわ、と胸の辺りが暑くなった。
この笑顔を、ずっと近くで見ていたいとさえ。
初めて、か久しぶりかも分からないが。
この人と夫婦になれて、良かったと思えた。
【閑話休題】
煉「ほら、紬」
『……?』
何故、私は今旦那様に手を差し伸べられている…?
とりあえず街を巡る事になったのだが、家を出て少ししたところで旦那様が思い出したように手を差し伸べてきた。
不覚ながら察せずにいると、旦那様がやや照れたように眉を下げた。
煉「……君と、手を繋ぎたくてな。
此処は人混みも多い」
あぁ、そうか……。
『…では、失礼して』
控えめにそ、と手を乗せるとキュ、と優しく手を握られた。
普段刀を握り、日夜鬼を狩る剣士の手とは思えない程穏やかで暖かい手だった。
(……ちょっと優越感)
そんな物を感じる資格は私には無いのだが、ちょっとだけ嬉しくなってしまう。
むず、と上がりそうになった口角を抑える。
煉「では、最初に行きたいところは?」
『彼処の甘味屋、最近新しい料理が増えたらしくて……』
煉「うむ、では行こうか!」
?「あら、紬ちゃんじゃない!」
ーー控えめに手を繋ぎ、一歩踏み出そうとした時。
鈴を転がすような可憐な声が、耳を撫ぜた。
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作者名:朝霧 アテネ | 作成日時:2022年8月23日 23時