拾参.情ある男は皆不器用 ページ17
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夢主side
……旦那様こと煉獄杏寿郎の父親、煉獄愼寿郎。
周囲で「柱の名折れ」「煉獄の名を穢す者」と陰口を叩かれているのは知っていたが、実際に家族として過ごしてきて分かった事がある。
…それは、愼寿郎様の人柄についてだ。
確かに彼はぶっきらぼうだ。
数週間数ヶ月言葉を交わさない事もあるし、あまり旦那様への態度がよろしくない事も知っている。
けれど、それを差し引いても。
……私は何故か、彼を「実の息子へ辛く当たる最低な男」という眼で見る事をしなかった。
否、出来なかったと言うべきか。
自分でも理由がとんと分からない。
分からない、が……それでも彼への陰口を聞いても到底同調する気にはなれなかった。
何故だか。
何故か。
…自分でもそれを知る由もない、が。
(不思議な物だ)
喜怒哀楽、そのどれともとれない不思議な感情。
キュッと胸の辺りを抑えたくなる衝動に駆られながら、私はかつての出来事を思い出していた。
いつかの事。
たまたま街中で複数の鬼殺隊士と談笑する機会があり、特に急用等も無かったので呼び止められ素直に会話に耳を傾けていた。
「いやぁしかし、本当に紬様は聡明でいらっしゃる!」
「俺もこんなに綺麗な嫁さんが欲しいもんだ」
「炎柱様が羨ましいですなぁ」
『いえ、買い被り過ぎですよ』
「見目麗しい上に謙虚とは、良妻賢母という言葉がこの世にあるというのも納得という物。
……………それに比べて元炎柱は過去の栄光に縋り、ダラダラと酒に浸りみっともないったらありゃしない」
『は?』
ーーその時、すぅ、と胸の内が冷えたのをよく覚えている。
あまり良い印象を持っていなかったのは確かだ、それは反論のしようも無い。
けれど……何故か、何故だろうか。
まるで───本当の意味での父親を侮辱されたような、そんな怒りを感じたのは。
「現炎柱が可哀想だなぁ、父親があんなんじゃ」
「戦線を退いただけでも潔いと褒めるべきか」
『……なさい』
「え?」
「紬様……?」
『訂正しなさい』
『あの人に言った罵詈雑言を全て、この場で』
『………私の前でそんな事言って、許されると思ったのかしら?』
気付けば口が勝手に動いていた。
そんな物は、ただの言い訳にしかならないのだが。
……嗚呼、全く不思議な物だ。
私にとって父親等、
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作者名:朝霧 アテネ | 作成日時:2022年8月23日 23時