登坂広臣に、嫁ぐことです

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「あー、待って。切るなよ、頼むから。」

「で、何？」

「今から会えない？」

「無理。」

「どうしても？」

「会う理由がない。」

「俺には、ある。」


そんなこと、知らないし


「私には、ない。じゃ。」

「だから、切ろうとするなよ。実はさ、もうAの部屋の前にいる。」


いやいや、部屋の前って

何を考えているの？


「少しでいいから、話せない？」

慌てて上着を羽織って、玄関へ急ぐ

軽く息を整え、ドアノブに手をかけた


「Aさん、どこへ行くつもりですか？」


声に驚いて振り返る

ムッとした表情で腕組みしながら、登坂が立っていた


「もしもし、A？」


あ、しまった

驚いた拍子に、スピーカーにしちゃって

彼の声が、玄関に響く


「誰、ですか？」

「えーっと、」

「A、今の、」


慌てて通話を終了させる

あーもー、最悪


「誰、ですか？」


じりじりと詰め寄ってくる登坂


「元彼。話があるって、会いに来た。今、部屋の外にいる。」

「わかりました。入ってもらいましょう。」

「え？」


私の代わりに、玄関を開ける登坂


「な、え、ちょ、どう、」

「騒がないで下さい、近所迷惑です。中へどうぞ。」


わけがわからない表情のまま部屋に入って来た彼


「なぁ、どういうこと？本物？」

「まぁ、ね。」

「さ、どうそ。お入りください。」


って、ここ私の部屋だし

勝手に進行しないでよ

しれっとした顔の登坂が、彼をリビングへと促す

仕方なく、その後をついて行く私

何か、とーっても嫌な予感がするのは私だけ？

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