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K side
目の前に並んだのは栄養バランスばっちり、見た目も彩りも良い料理たちだった。
F「食べようか」
そういって藤ヶ谷はずっと被っていたニット帽とマスクを外した。
初めて見るこの男の素顔はとても綺麗だった。
乱れた髪をなおす仕草をついじっと見つめてしまっている自分がいることに気づき、とっさに料理に目を移す。
人質にすぐ名前を教えるし、素顔もみせるし、こんな豪華な料理を振る舞うし、本当にこの男はなんなんだ。
こんなことをいうのはなんだが、誘拐犯としてだめだろう。
普通は身元を明かすような情報は公開しないだろうし、人質には貧相な食事が普通なんじゃないのか。
別にそれを求めているわけではないし、改めて俺が言うことじゃないけれども。
K「いただきます…」
見た目は良くても犯罪者が出すものだ。何が入っているかわからない。
恐る恐る口をつけたがそのおいしさに驚いた。
K「おいし…」
F「よかった」
思わず声に出してしまった感想に男は少し嬉しそうに反応する。
先程まで俺に刃物を向けていた男が俺に笑いかけている。
一緒にご飯を食べている。
テーブルに向かい合い、共に笑っている。
流れは異常だけれど、あまりにも今の状況が普通の食卓すぎる。
俺がずっと憧れていた普通に。
F「どうした？やっぱ口に合わなかったか」
つい箸が止まっていた俺を覗き込んできて、目と目が合う。
K「いや、そんなこと…」
F「そう？ならいいけど」
そう言いながらどんどん料理を口に運ぶ藤ヶ谷を見て俺も黙って食べ進める。
F「とりあえず足のそれ、最低限の生活をするのに部屋の移動は出来るような長さしてあるから適当に過ごして。あんまり外そうと躍起になると怪我するからやめておいたほうがいいよ」
K「…」
F「明日にはお前の親に連絡するから」
そこで身代金の要求か。どう、かな。
親は俺を心配しているのだろうか。
その日は用意された寝床で夜を過ごした。普通に快適だった。
久々に何も考えずにぐっすり眠れた気がする。
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作者名：あかつき。 | 作成日時：2023年5月31日 0時
