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母が扉をノックする音が聞こえる
その音さえも、今は怖い
「A、起きてる？
朝ごはん出来たわよ。降りてらっしゃい」
もう何度目の朝だろう
さっき食べて寝たばかりなのに
リビングに行き、テーブルに座る
いただきます、という形式的な挨拶をする
母はソファでテレビを見ている
「連日話題になっている平野紫耀容疑者についてですが、平野容疑者は犯行を認めており……」
たまたま聞こえてきたニュース
だから、違うんだってば
彼はそんな人じゃない
聞こえないフリをして心の中で叫ぶ
彼といたい
でも、その思いは誰にも認められない
皆口を揃えて言うの
君は間違っている
普通じゃない
………狂ってる
箸が、指の間をするりと抜けて、床に落ちた
涙が止まらない
「A！」
母が駆け寄ってきて背中を摩る
誰か私を、
...私達を、認めてほしい
否定しないでほしい
…いつも私を認めてくれたのは彼だけだった
包むような優しさと愛でいつも私を救ってくれる
彼を初めて必要とした人が私のように、
私を初めて心の底から必要だと言ってくれたのも、彼だけ
あの日々が、どんなに尊いものだったのか今改めて気付かされる
「A、泣かないで…」
母はなだめるように私に言う
"「A、泣くな…」"
低いけど、優しく伸びる声
お願い、またその声で私を、呼んで
…
気がつけば私は自分の部屋にいて、ベッドで横になっていた
ぼんやり天井を見つめる
もうこんな自分、嫌だ
一生私はこんな思いをしながら生きて行くのかな
白昼夢に彷徨って、
永遠に、抜け出せない
.
第7章 白昼夢に彷徨う 完
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作者名：m
| 作成日時：2017年6月4日 16時
