-S- loving you. (ページ49)

今日:17 hit、昨日:47 hit、合計:702,148 hit

49. ページ49

＊＊＊

そして、どれくらいの間、
車に揺られていたのかわからなかった

気がつけば視界に広がるのは真っ白な天井と、蛍光灯の光

…病院？

廊下の方から
ぱた、ぱた、ぱた、と誰かが走ってくる

そして、勢いよくドアが開き、
懐かしい声が聞こえた

「A！！」

『…お母さん…』

ぎゅっと、体が締め付けられる

懐かしい、お母さんの優しい匂い

「よかった…っ…怪我は？どこも痛くない？ねぇ、顔をよく見せて…っ…」

久しぶりに見たお母さんは半年でかなり痩せていた

あんなに綺麗にメイクもして、綺麗な服を着ていたのに、それが全然感じられなかった
皺も増えた？手もこんなに血管が浮き出てる

「お母様、婦警の佐藤と申します」

私にずっと付いてくれていた女性警官は、
佐藤さんと言うらしい

「あぁ…本当に、ありがとうございました…」

「今検査を受けたところ、
痣の跡が見受けられますが、痛みはないそうなので時間が経てば消えますよ」

「…よかったわ…平野がやったのね」

『…違う…よ…』

彼じゃない
こんな痣の残したのは、エヌとエックスだ

彼は私に一度たりとも手をあげたことはない

「A、もういいのよ、怯えなくて。
かばう必要なんてないの。あいつは捕まったの。これから長い間苦しむの」

これは、なんだろう

心の中で何かが激しく渦巻く
それは言葉となって、出ていく

『違う！彼はそんな人じゃない！何もわかってない！！』

母は一度驚いた顔をして、
すぐに口を開いた

「何言っているの、悪い奴よ！」

そして、頬にパチンと乾いた痛みが走る

『…っ…』

「お、お母様！落ち着いてください！」

佐藤刑事が母をなだめる

この重い空気が、息苦しい

『…私、下で飲み物買ってくる…』

その空間にいられなくて、おぼつかない足取りで病室を出る

どうして皆わかってくれないの

どうして悪い奴だと決めつけるの

自販機にお金を入れる
すると、"蜂蜜レモン"という文字が目に入ってくる

無意識にそれを選んでいる自分に気づいて、
自嘲の笑みをこぼす

どこまでも私は彼一色なんだ

ゆっくり病室まで戻る

でも、病室の前で足を止めた

佐藤刑事と母の会話が聞こえてしまった

.