-S- loving you. (ページ32)

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すると、次第に彼の歩くスピードが遅くなってきて、少しずつ、彼に追いついてゆく

「…俺が怖い？」

歩きながら呟くように言う

いつか聞いたことのある言葉だった

『怖くないよ…前にもそう言ったでしょ…？』

「…じゃあ…なんでさっき、あんな顔したんだよ…怯えたような顔」

『それは…』

「…時々怖くなる」

静かな夜の闇に響く

息切れする私の口からはかすかに白い息が闇に溶ける

「…何もかも嘘かもしれないって」

『そんな、嘘なんかじゃ、』

「もし…Aの気持ちが偽物だったら…俺は、、どうすればいい？」

『…』

私達は、同じことを考えていたみたい

「もしAが…幸せになれないとしたら、俺は、どうすればいい？」

『いいから…』

その言葉で十分だった
大切な人が、こんなに想ってくれているという事実がここにあるから

『一緒にいるだけで、私は幸せだよ』

本心なのに
幸せすぎて怖いくらいなのに

「……嘘じゃない？本当は…帰りたいって…」

『やめて…』

彼の背中を抱きしめた

どんなに好きでも、
どんなに言葉にしたとしても、
どんなに抱きしめたとしても…

些細な行動や言動で疑ってしまう…

好きだから、疑ってしまう

想いの丈を、そっくり、丸ごと伝える手段をもたないことに、歯痒くなる

きっと何かが欠落してる
何かが足りていないんだ

『紫耀のことが本当に好きだから…お願い、信じて………』

背中に回した腕に、
力を込める

伝わってほしい

抱きしめただけで、彼に伝わればいいのに…

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