-S- loving you. (ページ31)

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「…そういえば、裏の山、登ったことないよな？」

『裏の？ないけど…？』

「…いいとこ見つけたから、…今から登ろ」

『え？！だってもう20時過ぎだし…いくらなんでも…』

「いーから。これ着て」

紫耀は、着ていたグレーのパーカーを脱ぐと、少し雑に私の肩にかけた

紫耀が着てもちょっとぶかぶかしているのに、私が着たら変になると思うのに…

彼は黒いパーカーを出して着ている

袖を通すと、やっぱりぶかぶかだった
でも彼の匂いに包まれているみたいで嬉しかった

「着た？じゃ、行くよ」

無邪気に微笑んでみせて、私の手を取ると夜の闇へ飛び出した

彼の、こういう純粋無垢な一面を目にすると、
この人は本当に人を殺したのかなと思ってしまう…

あの日この目で見たというのに

彼の手はとても温かくて、
安心する

彼が不器用に微笑えむとき、
私も微笑む

彼が悲しみに暮れるとき、
私の心は苦しい

彼の唇が愛を囁くとき、
私の心は満たされる

彼と出会ってこんな焦がれるような感情を知った

「足元、気をつけて」

ごつごつした山道を、前を行く彼に手を引かれながら、2人でひたすら登る

『…どれくらいで着くの？』

「んー、あと5分くらい歩けばすぐ着く」

『…こんな時間に山登りだなんて、どうしたの…？まさか、私のこと殺して、埋める気だったりして…』

冗談で言ってみた

「……よくわかったな、」

そう言う彼の言葉が余りにも冷たくて、一瞬立ち止まってしまった
繋いでいた手がすっと離れた

「……馬鹿。嘘だよ(笑)」

白々しく私を見る

『…お、驚かさないでよ…』

「悪いのは驚くAの方」

そして、どんどん先に進んで行ってしまう

『え…待って…』

必死になって追いかけても、なかなか距離が縮まらない

怖くなって彼の名前を呼ぶけど、
それでも止まってくれなかった

怒らせてしまったのかもと思うと、
途端に恐ろしくなってくる

彼の気持ちなんて、ひどく淡白なのかもしれない…

『…紫耀、』

震える声で、彼の名を、呼んだ

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