-S- loving you. (ページ29)

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29. ページ29

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名残惜しそうに離れるお互いの唇
そのまましばらく見つめあう

「……ほんまにいいん？」

『…うん…いいの…』

「…何も引け目に感じなくていいから。何も悪いことはしてない。
Aはただ、誘拐されてるだけ。
俺が連れ回してるだけだから、気にすんな」

返事の代わりに、彼の肩に体を預けた

幸せで、また泣いてしまいそうになる
もうこれ以上に、幸せなことなんてない

お母さん…ごめんなさい

心配かけて、悲しい思いをさせて、
本当にごめんなさい

女手ひとつで育ててくれたのに、1人にしてごめんなさい
謝っても謝っても謝りきれません

でも私がほしいものは、
この街にはもうないの

彼の隣に、死ぬまでいたいんです

『………お母さん…ごめんね…』

小さく呟いたのを彼は聞き逃していなくて、私の頭を優しく撫でてくれた

「…もう、Aは俺のもんやから」

『…………っ…うん…』

「…そろそろ行く。最後に見とけよ」

高台から見下ろす自分の街を見つめて、
家や学校、今まで通ったあの海沿いの通学路…すべてをこの目に焼き付ける

『…私の家、あの辺なの』

「…そっか。海近いんやな」

『うん。部屋から見えるんだよ、オーシャンビュー。いいでしょ？』

ふっ、と彼が優しく笑った

その表情に、私も自然と頬が緩んだ

『…もういいよ。』

「じゃ…行く」

ゆっくり、車が動き出す

高台からだんだん離れていく
次第に街は見えなくなった

また泣いてしまいそうになったけど、泣かなかった

それは…

紫耀が運転中も、空いている左手で
私の右手をずっと握っててくれたから

さよならの日の風は冷たい

だけど私の心は安心と彼への愛しさで

いっぱいだった。

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4章終わりの始まり完