-S- loving you. (ページ27)

今日:19 hit、昨日:47 hit、合計:702,150 hit

27. ページ27

＊＊＊

おかしい

いつまで経っても、痛みが来ない

そっと、
目を開けると

刃は私のすぐ横を掠めて、
助手席のシートに刺さっていた

そして、
目の前の状況に追いつけなくて、
精一杯把握しようとする

この張りつめた空気の中、
私が感じるその温もり

彼に抱きしめられていた

冷たいライダースの感触

「…母親や友達が…どんな思いで待ってるのか、…知ってるやろ？」

抱きしめている彼の腕の力が緩くなる

「…みんなお前の帰りを待ってる…そいつらを裏切るん？」

ためらわない
だって答えはもう出てる

『うん』

「…はっ…お前は…鬼やな」

エンジン音だけが虚しく鳴っている

黒い瞳に捉えられる
悲しげに揺れる瞳を見つめ返す

私こそ、本当に鬼なのかもしれない
幾つもの人の気持ちを裏切っている

「…やめとけ…殺人犯なんか…

……A…」

今にも泣き出しそうな声で私を呼ぶから
私の方が泣いてしまう

「…そんなのAが辛いだけだ」

『辛くなんかない…一緒にいれればそれでいい…』

「頼むから、
頼むから今すぐ俺の前から消えろ…」

そう言いながら
彼はまた強く私を抱きしめた

…彼は気づいているんだろうか

抱きしめられていては消えようにも消えられない…

消えようなんて思っていない
離れようとも、思わない

「…早く行け、じゃなきゃ
俺、一生お前のこと、手離せなくなる…」

彼の顔が見たくて、顔を上げる

「後悔するよ…俺は…くだらない人間で、汚れてる。
傷つけることしか出来ない…」

頬を流れる涙を、彼の掌で拭かれる

「…Aは、俺がいてくれてよかったって言ったろ？…でも俺はあいつらがいる時、助けることもしなかった…だからもう、Aの苦しむ姿なんて、見たくないんだよ」

冷たい瞳を持っているくせに、
彼の心はこんなにも温かい

『…だったら傍にいさせてください…』

「…あかん、」

『どうして？…私は紫耀さんと一緒にいたいの…』

とめどなく涙は流れる

もう心も体も壊れそう

だから傍にいたい

彼と一緒にいたいと思うのに

「…あと10秒…」

『え…？』

「あと10秒待つ…ゼロになるまでに行け…」

.