やわらかい風が吹いたら3-sho hirano-

71 ページ20

"恵比寿ガーデンプレイス時計広場で"



ホテルから5分



フラットシューズに履き替えて足早に向かう



「…おまたせっ」



息を切らす私にびっくりする様子で



し「ゆっくりで良かったのに、うわぁ、足無理させちまったなー」



「あれからしばらく冷やしてたし、大丈夫だよ」



し「うーん、でもほら、座って座って」


隣を空けてくれる



し「疲れてるとこごめんな、どーしても顔見て話し

したくて…電話じゃ無理なやつだから…」



横顔が少し大人びたように見えたのは



東京という都会の雰囲気が手伝ってなのか




…


彼がゆっくり話し出す




し「実は夏休み前に事務所から声掛けられてたん

だ、本格的にデビューしてみないか…って



改めてステージ終わってから6人で話したんだけど、

今日のお客さんの反応みて自信がついた部分もあっ

て前向きに返事することになった」



し「Aちゃんが進路で揺れてるの見てたか

ら、俺の事で選択が変わる事があっちゃいけないと

思って、決まるまで黙ってた、ごめん」



し「…だけど、Aちゃんのステージ見て答え

なんか最初から決まってた気がするんだ」



「え…？」



し「Aちゃん一瞬で会場ぜんぶもってっちゃ

ってた。…才能、周りはとっくに気づいてる」


優しく愁しく笑う


…

「…才能かどうかわからないけど…明日ね、返事く

れって言われてるの」


彼がこちらを向く



「私…今日の事一生忘れない。背中押してくれたお

客さんやみんなの為にもう一度、今度は胸を張って

立ちたいの、あの紫陽花畑に」



視線を合わせると気のせいか



逸らすように彼がゆっくり口を開く


し「…紫陽花か」



「？」



し「Aちゃんがそう思うことは本当にすげぇ

よ…ただ…あのカメラマンとの思い出の場所…なん

だな」





し「…なんか俺、舞い上がってたのかな」




ーーーー

72-sho side-→←70

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す