勝者�� ― No side ― ページ13
「てめぇがどこまで知ってるかはどうでもいい。そんなもんすぐ奪えるんだからなぁ。だからさっさと死ね」
「他者から奪うことでしか自分を確立できないか。哀れだな」
「ああ？ そりゃその女だって同じだろうが。僕らと同じ化物だからなぁ」
エルフの言葉を聞き、猿鬼は鋭く彼を睨む。
「お前が同じだと？ ふざけるな。法子は、誰よりも美しい心を持った人間だ。お前とは違う」
「…この、死に損ないがぁ!!」
叫びながら全力で猿鬼を支配しようとした瞬間、エルフの口から血が吐き出される。
その血が自身の左胸からにも溢れ出し、何が起きたのかエルフは理解できなかった。
「…な…」
「俺はもう奪われはしない。奪わせるものか。何があろうと他者を踏み台にして進む道などありはしない」
そう告げる猿鬼は右手が自身の左胸に突き刺さっていた。
そのままズルッと何かを引きずり出す。
「これは自己犠牲ではない。俺の正義の証明だ。俺は最後まで守り抜くと決めた」
そう言いながら掲げるようにエルフに見せたのは、自身の命の源である心臓だった。
「ば…馬鹿な、僕の意志に反して自 殺だと…!? ありえないっ…そんなこと絶対に」
「お前は俺に勝てないと言ったはずだ。そしてこの先も、俺の意志は繋がれていく。この
心臓を引きずり出された痛みを味わいながらエルフが最期に見たのは、勝者の顔をした猿鬼だった。
「おいハジメ！」
「あ？」
医務室を追い出されたハジメは、通りかかった猿門に呼び止められた。
「俺はもうお前には負けねぇ！」
「んだよいきなり」
「兄貴をハメやがったクソヤローは俺がぶっ潰す。必ずな」
「生憎だが俺もそれに関しては先を越される訳にはいかねぇ。俺を巻き込みやがったクソヤロー共は全員潰すつもりだからなぁ」
「言ってろ」
「てめーこそな」
いつもの口喧嘩をし、二人は別々の道へ歩き出す。
「見てろよ。俺が必ず兄貴の無実を証明してここに連れ戻す。そんで次の新年大会は、俺達5舎が優勝を頂くぜ」
「…っは、やってみなクソ猿」
かつての彼に戻ったことに気づいたハジメは小さく笑みを浮かべながら言う。
その声を聞きながら、猿門は大切な者達がいる部屋へ向かい扉を開いた。
もっと強くなる自分を見て欲しいと思いながら。
「兄貴、法子ねぇ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：いちご | 作成日時：2017年11月30日 17時
