８ ページ33
.
「今日はなんの記念日だったかしら」
箱のなかで光るダイヤモンドのネックレスを、指先でそうっと持ち上げながら、Aちゃんは言った。
大学の入学祝いに両親から譲り受けた中古のセダンのなかで、それはあんまり場違いな輝きを放った。
オレは手を伸ばし、彼女の細い首にそのネックレスを付ける。
胸元に輝く、異質な宝石。
「べつに、記念日は関係ないで」
身を乗り出し、助手席の彼女にキスをする。
一度触れた唇を離して、角度を変え、もう一度。
ささやかな水音。
「むっちゃ似合ってる」
おそらく世の男性が女性への贈りものとして選ぶそれと、桁数のひとつちがう価値を持つその宝石は、彼女が身につけると、よりいっそう美しく光るようだった。
同時に、きみのその表情を、よりいっそう冷たく見せる。
まるで飾り立てられた人形のよう。
「悪いわ。今日は洋服も買ってもらったのに」
「ええの。オレが勝手に贈りたいだけなんやから」
「……そう」
ありがとう、と言って、きみは微笑んだ。
彼女がこんなもので喜ぶことはないとわかっていたとしても、オレはにわかにうれしくなった。
オレの買った服。
オレの贈ったジュエリー。
今日１日、オレの色に染まってくれた、きみ。
この手は、この足は、どうやったらきみの心を満たすことができるのだろうか。
きみはずっと城のなかから空を眺めたままで、踊るのは、いつだってオレのほうだ。
オレが気が狂うほど深く慕う相手は、きっと、どんなに傲岸などこかの国の姫よりも厄介な女なんだろう。
「そろそろ時間ね」
きみは自らのスマホに目を落としながら言う。
普段はかわいらしいオッドアイの猫の写真が映し出されるロック画面には、無数のメッセージの受信履歴が表示されている。
きっと、母親からの帰宅の催促だろう。
彼女の母親は、彼女を異常にあいしているのだ。
オレとおなじように。
「……また連絡する」
「ええ」
車を降りたきみが、ふいに振り向いて微笑む。
「またね」
またね。
その言葉だけが、オレを底までは堕とさない。
またね。
まだ、きみをもう一度抱きしめられるという証。
太陽より月より、この場所を照らし出す光。
きみがオレをあいしてくれない限り、満たされないのは、オレもおなじなのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 83人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「関ジャニ∞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
べに(プロフ) - ココナッツさん» ココナッツさーん！ありがとうございます！うれしいです！がんがん進めていきます笑 明るくない話ですが楽しんでいただけるようがんばりますね！^ ^ (2018年2月1日 11時) (
レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - べにさん！待ってました！！新作の世界観に、はぁもうまたため息…やっぱり好きです！！続きを楽しみにしています！ (2018年2月1日 1時) (レス) id: d0c3580366 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：べに
| 作成日時：2018年1月31日 16時
